カルチャー
2015年10月19日
高齢者でも頭がしっかりしている人は「腸相」がいい
[連載] 認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい【3】
文・新谷弘実
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高タンパク・高脂肪の食事が「腸相」を悪くする


 私が大腸内視鏡(コロノスコープ)で腸の様子を観察したのは、アメリカ人が最初でした。そのときの衝撃はいまでも忘れられません。スコープを通して目にしたアメリカ人の腸は、一様に腸相が悪く、その悪さは想像以上だったからです。

 渡米したのは1963年。その後、かねてからのアイデアをもとに大腸内視鏡を開発したのが1970年代に入る頃でした。

 当時のアメリカは、成長期の若者から、身体の弱い人やお年寄りまで、日々たっぷりの乳製品と分厚いステーキを食べるのが当たり前でした。高タンパク・高脂肪の食事が身体をつくり、健康をつくると考えられていたからです。

 一方で、腸にトラブルを抱えている人が多く、10人にひとりはポリープがあるといわれていたほどです。その状況は当然知っていたものの、実際の腸相の悪さにはやはり驚かされました。

 どの腸も、腸壁は硬く厚く、内腔も狭くなっていて、ところどころに輪ゴムで縛ったときのようなデコボコができており、大小のポリープもあちこちに見られる状態だったからです。ポケット状のくぼみに、排泄されなかった便が停滞便として残っていることも少なくありませんでした。

 腸相の悪い人の多さと比例するように、当時のアメリカではガンや心臓病をはじめとする食生活由来の疾患が増え続けており、国家が負担する医療費は、国家財政を圧迫するほどにふくれ上がっていました。

アメリカ人の腸相が示した2つの事実


 そこで、アメリカ国民の健康の根本的改善を目的とする国家プロジェクトがスタートしたのです。その際のエビデンスとなったのが1977年に発表された「マクガバン・レポート」と呼ばれる、5000ページもの厚さの研究調査報告書です。

「マクガバン・レポート」は、それまでの高タンパク・高脂肪の食生活を真っ向から否定する代わりに、理想的な食事というものを定義し、食生活を変えるように提唱しました。そこで最も理想的な食事とされたのが、じつは元禄時代以前の日本の食事だったのです。

 これを機に、アメリカは国をあげて食生活の改善を進めてきたのですが、真剣に健康のことを考えて高タンパク・高脂肪の食生活を改めた人たちが増え始めたことで、1990年以降、アメリカでは大腸ポリープや大腸ガンの発症率が低下しています。

 また、内視鏡で見ても、食生活を変えた患者さんたちの腸相は見事に変わりました。最悪としかいいようのなかった腸相の悪さが、健診をするたびに改善されていき、よい腸相へと変化していったのです。

アメリカの患者さんたちの腸相は、2つの事実を示してくれています。
 ひとつは肉食や乳製品中心の食事が腸を大変に汚してしまうということ、もうひとつは食生活を変えることで腸相は変わるということです。

 アメリカでは現在、日本食はヘルシーフードという認識が定着しています。健康に気を遣う人ほど日本食の考え方を日常生活に取り入れています。それがアメリカ人の腸相を変え、生活習慣病を減らしたという事実は着目すべき点だと思います。

 このことは「和食」が「健康的な食生活を支える栄養バランス」と評価され、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことからも明らかだといえるでしょう。腸相をよくするヘルシーフードとして、アメリカだけでなく、世界中から和食が注目されているのです。

 なお、今回の記事内容については、10月16日発売の拙著『認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい』(SB新書)でもふれています。あわせてご一読いただければ幸いです。

(了)





認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい
新谷弘実 著



新谷 弘実(しんや・ひろみ)
1935年福岡県出身。医学博士。ベス・イスラエル病院名誉外科部長。米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科元教授。1960年順天堂大学医学部卒業後、1963年に渡米。1968年に「新谷式」と呼ばれる大腸内視鏡の挿入技術を考案し、世界で初めて開腹手術をすることなく内視鏡による大腸ポリープ切除に成功。その技術によりガン発症リスクを大きく減少させ、医学界に大きく貢献する。日米で35万例以上の胃腸内視鏡検査と10万例以上のポリープ除去手術を行ったこの分野の世界的権威。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『胃腸は語る』(弘文堂)、監修に『免疫力が上がる!「腸」健康法』(三笠書房)など多数ある。
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