カルチャー
2015年10月26日
「食歴」は、10年後の脳と健康まで左右する!
[連載]
認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい【5】
文・新谷弘実
将来、認知症になるか、健康を保つことができるかを左右する腸相ですが、この腸相にもっとも大きな影響を与えているのが、これまで食べてきたものの履歴、「食歴」です。実際、内視鏡で見ても、腸には食歴がしっかりと刻まれています。この食歴は脳と身体の健康、老化の速度をも決定づける体内酵素にも少なからぬ影響を及ぼします。今回はよい腸相をつくるのに欠かせない食歴と体内酵素について解説していきます。
腸に刻まれるあなたの「食歴」
ヒトの身体は年齢を重ねるごとに機能が低下していきます。身体のあちこちが動きにくくなる、目や歯が衰えてくる、物覚えが悪くなったり、すぐには思い出せないことが増えてくる。このような加齢による機能低下は、ある意味でしかたがないことです。
しかし、年を重ねることで起こる機能の低下と、病気になるということを同じに扱ってはいけないでしょう。加齢による機能の低下は生き物としての自然現象ですが、身体によくない習慣を積み重ねてきた結果の病気は、自分自身が招いたことです。防ごうと思えば防ぐことができたという面からいえば、大切な身体を病気にしてしまった責任は自分にあるといわざるを得ません。
腸の中の状態をよい状態にできるか、悪い状態のまま放っておくかも自分次第です。もしも脳も身体も健康でいたいと望むのであれば、腸内をよい方向に保てるよう生活を変えていかなくてはなりません。
腸の状態である腸相は、その人がそれまで食べてきたもので左右されます。腸相に最も大きな影響を与えるものは「食歴」、つまりそれまで食べてきたものの履歴です。腸には、その履歴がしっかりと刻まれているのです。
私が食歴に注目したのは、臨床の場で「なぜこれだけ腸相の悪い人が多いのか」という疑問を抱いたからでした。そこで診察の際に、患者さんたちに食歴と生活習慣をお聞きするようになったのです。そのデータが増えていくにつれ、腸相と食歴の相関関係がはっきりと見えてくるようになりました。
健康な人の腸相はやはり健康です。心身が健康な人は腸を汚すようなものを食べてこなかった食歴のよい人です。反対に何かしら健康を害している人の腸相は悪く、そうした状態をつくっても不思議ではない食歴の人が多いのです。
腸を見れば食歴がわかるだけでなく、その人の将来までも見えてくる、といっても過言ではありません。いつまでも脳と身体の健康を保ちたいのであれば、まずは腸内をよい方向に保てるような食生活を心がけるべきなのです。
これまでの食事が、いまの健康状態を左右する
食歴と腸相が関係し合っているということは、ある意味で当たり前といえば当たり前でしょう。私たちの身体をつくっているものは、日々口にする食べ物や水です。その食べ物や水の質がよくなければ、それらを処理して、栄養素として分解・吸収を行う胃や腸が、真っ先にダメージを受けても何ら不思議ではありません。
1回1回の食事から受けるダメージは小さくても、それが毎食、毎日、毎年と続いていけば、ダメージはどんどん大きくなっていきます。現在の健康状態は、過去からの食生活の積み重ねが現れているものといって差し支えはないのです。ですから、仕事が忙しいからといって、日々の食事をおろそかにすべきではないのです。
食事や水の質が悪ければ、吸収された悪い成分は血管を通して体内のあらゆる細胞に運ばれていきます。たとえ材料の質が悪くても、細胞は運ばれてきたものを使って、身体を維持するためのさまざまな活動を行うしかありません。
ですが、質の悪い材料では、細胞を新しくつくる際も、材料から栄養素を取り込むにしても弊害が出てきます。細胞の中のゴミが増える、活性酸素に対抗できなくなるなど、いろいろな問題が出てきて細胞を老化させることにつながっていきます。
そこから身体の病気や認知症といった脳の病気が生じてくるのです。つまり、これまでの食事の良し悪しが、いまの健康状態を左右しているのです。
新谷 弘実(しんや・ひろみ)
1935年福岡県出身。医学博士。ベス・イスラエル病院名誉外科部長。米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科元教授。1960年順天堂大学医学部卒業後、1963年に渡米。1968年に「新谷式」と呼ばれる大腸内視鏡の挿入技術を考案し、世界で初めて開腹手術をすることなく内視鏡による大腸ポリープ切除に成功。その技術によりガン発症リスクを大きく減少させ、医学界に大きく貢献する。日米で35万例以上の胃腸内視鏡検査と10万例以上のポリープ除去手術を行ったこの分野の世界的権威。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『胃腸は語る』(弘文堂)、監修に『免疫力が上がる!「腸」健康法』(三笠書房)など多数ある。
1935年福岡県出身。医学博士。ベス・イスラエル病院名誉外科部長。米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科元教授。1960年順天堂大学医学部卒業後、1963年に渡米。1968年に「新谷式」と呼ばれる大腸内視鏡の挿入技術を考案し、世界で初めて開腹手術をすることなく内視鏡による大腸ポリープ切除に成功。その技術によりガン発症リスクを大きく減少させ、医学界に大きく貢献する。日米で35万例以上の胃腸内視鏡検査と10万例以上のポリープ除去手術を行ったこの分野の世界的権威。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『胃腸は語る』(弘文堂)、監修に『免疫力が上がる!「腸」健康法』(三笠書房)など多数ある。