カルチャー
2015年10月22日
欧米型の食生活が「認知症」を近づける!
[連載] 認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい【4】
文・新谷弘実
  • はてなブックマークに追加

子どもの頃のきれいな腸相に近づけるのが理想


 いまは腸相が悪くなっていたとしても、あきらめることはありません。よい腸相へ変えていくことは決してむずかしくないからです。食べるものや生活習慣を見直すことで、腸相はどんどん変わっていきます。

 最も理想的な腸相の持ち主といえば、それは他ならぬ赤ちゃんです。幼い子どもたちの肌は「ピーチスキン」と称されるほど美しく健康的ですが、腸の中も、じつに美しく健康的です。全体的にきれいなピンク色をしていて、やわらかく、粘膜の色つやもよい。粘膜のひだには均等性があり、デコボコもなく滑らかです。カーブの状態もスムーズで、ゆるやかなぜん動運動も見られます。

 腸相を悪くしてしまっている人も、子どもの頃はこのような美しい腸相をしていたはずです。その状態に近づけていくことが腸と脳を健康にする第一歩なのです。

 たとえば肉食を減らして、食物繊維を意識して摂るようにするだけで、腸の中はクリーンになり、腸内細菌が増えていきます。
 じつは食物繊維は腸内細菌のご飯でもありますから、食物繊維をたっぷり摂れば腸内細菌の働きが活発になり、免疫力の向上や体内酵素の生成も高まります。

 腸相を整え、腸を健康にすることで身体全体の細胞に栄養が行き渡り、細胞も元気になります。人間の身体は、小さな細胞一つひとつの働きで成り立っていることを思えば、細胞がしっかり機能してくれることが全身の若返りの秘訣であることはいうまでもありません。

 身体の細胞は、常に少しずつ古い細胞から新しい細胞へと入れ替わっています。新しい細胞をつくっているのは食べ物と水で、それを取り入れる器官が腸なのですから、善玉の腸内細菌が存分に活躍できるような、赤ちゃんのようなきれいな腸相を取り戻すことが、細胞を若返らせるうえで大事なのです。

よい腸相はなら脳細胞まで元気になる


 ただし脳細胞に関しては、身体の細胞とは異なる点があります。脳細胞は入れ替わりをせず、この世に生まれたときから死ぬまで同じ細胞を使い続けます。しかも、いったん死滅してしまうと二度と再生できません。ですから、常にエネルギー源となる栄養素を供給し続けることが、脳細胞を損なわないためには必要となります。

 細胞のエネルギー源は、グルコース(ブドウ糖)とケトン体の2つです。通常はグルコースが使われていますが、糖尿病などがあってグルコースを使えないような場合、細胞はケトン体をエネルギー源として使おうとします。

 認知症のある脳も、脳細胞の障害によってグルコースを使うことができなくなっているエネルギー不足の状態です。そこで現在はケトン体のほうに着目し、ケトン体によって働けなくなっている脳細胞を元気にし、認知症改善を図る取り組みが進められています。

 最近、アルツハイマー病の予防・改善につながる食材としてココナッツオイルが大きく注目されているのは、ココナッツオイルに含まれる中鎖脂肪酸が、肝臓で分解されてケトン体となるからです。

 ココナッツオイルの他にも、脳細胞を元気にし、脳の機能を高めてくれるとされる食材はいくつかあります。たとえば青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)はよく知られていますし、記憶や認知機能の改善に効果があることは数々の研究報告から明らかとなっているところです。

 ビタミンB群をはじめとしたビタミン類も、高齢になってからの認知機能の低下を遅らせたり、改善したりする効果が認められています。

 脳を守るために、脳によいとされる栄養素の多い食材を積極的に摂ることは、とてもよいことだと思います。ただし、どんなに一生懸命摂っても、腸相をよくしておかなければ栄養素が細胞に届かず、脳に効くとされているものも効果を発揮することができなくなります。腸相が悪化していては元も子もないのです。






認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい
新谷弘実 著



新谷 弘実(しんや・ひろみ)
1935年福岡県出身。医学博士。ベス・イスラエル病院名誉外科部長。米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科元教授。1960年順天堂大学医学部卒業後、1963年に渡米。1968年に「新谷式」と呼ばれる大腸内視鏡の挿入技術を考案し、世界で初めて開腹手術をすることなく内視鏡による大腸ポリープ切除に成功。その技術によりガン発症リスクを大きく減少させ、医学界に大きく貢献する。日米で35万例以上の胃腸内視鏡検査と10万例以上のポリープ除去手術を行ったこの分野の世界的権威。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『胃腸は語る』(弘文堂)、監修に『免疫力が上がる!「腸」健康法』(三笠書房)など多数ある。
  • はてなブックマークに追加