カルチャー
2015年10月26日
「食歴」は、10年後の脳と健康まで左右する!
[連載] 認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい【5】
文・新谷弘実
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腸だけでなく体内酵素をも決定づける食歴


 口から入る食べ物や水は、腸だけでなく体内酵素にも少なからぬ影響を及ぼします。
 患者さんたちに対して食歴と腸相との関係を探るアンケートを進めていく中で、私は健康状態の良し悪しを握るキーワードがそこに隠されていることに気がつきました。それが体内酵素の量と活性度です。

 酵素が、体内で起こるあらゆる生体活動になくてはならないものであることは、これまでも触れてきました。また、人間の体内で働いている酵素は、現在明らかになっているところで5000種以上あり、その大半を腸内細菌がつくり出していることもお伝えしてきました。

 体内で使われている酵素の約3000種が腸内細菌の働きによるものです。残りの酵素は、細胞自体がつくり出しているものと、食物として外から取り入れるものとに分かれます。
 食歴を検討していくと、腸相がよく、心身ともに健康な人たちに共通していたのは、長年、酵素を含む新鮮な食べ物をたくさん摂り続けていたことです。

 そのような食生活を続けることで、酵素をつくり出してくれる腸内細菌もまた活発に働ける腸内環境になっていく...という好循環ができあがっていたのです。

 反対に、腸相の悪い人たちの場合は、外からの体内酵素の摂取が少なく、なおかつ体内の酵素を大量に消費するような食生活や生活習慣を続けてきたことが共通項でした。

 健康であるかどうかの原点にさかのぼっていくと、身体の中に十分な量の酵素があるか、体内の酵素が必要なときに必要な場所でしっかり働けているかに行き着きます。その人の酵素の状態がどうかは、過去からいまに至るまでの食歴で差が出るのです。
 つまり、健康を左右する腸はもちろん体内酵素をも、食歴によって決定づけられるのです。

生きていくのに欠かせない酵素の存在


 健康を左右する酵素に関してはまだまだ不明なところも多く、現在も研究が進められている最中ですが、間違いなく断言できるのは「酵素なくして、私たちは生きられない」ということです。
 体内での物質の分解、合成、消化に始まり、吸収、輸送、代謝、排泄に至るまでのありとあらゆるプロセスに酵素が関わっているのです。

 食べる・飲む・運動する・眠る・エネルギーをつくる・血液をつくる・筋肉をつくる・排泄するなど、すべての生命活動の中心に存在するのが体内酵素で、細胞の活性を高めたり、細胞老化に直結する毒素や老廃物を除去したりするのにも酵素が深く関わっています。脳内の細胞も、当然さまざまな酵素の力があって健康に機能することができます。

 酵素には、体内でつくられる「消化酵素」「代謝酵素」と、食物を通して摂取する「食物酵素」があります。前者の、2つの体内酵素は次のような働きを担っています。

 ひとつめが、栄養素をうまく取り込むために必須の消化・吸収分野です。たとえば唾液の中に含まれているアミラーゼはでんぷんを分解し、胃液に含まれているペプシン(プロテアーゼ)はタンパク質を、膵液の中にあるリパーゼは脂肪を分解します。

 次が健康維持や体組織の修復に関するもので、代謝酵素が活躍する分野です。
 細胞の再生や古くなった細胞・血球などの修復、神経系やホルモン系を正常な状態に調整するといった役割を果たしており、睡眠の促進や肥満抑制にも関与しています。

 そして3つめが解毒で、ここでは有害な物質を分解して無害なものに変え、体外に排泄するという重要な働きをしています。体内の解毒器官である肝臓は、500種類以上の体内酵素を使って毒素の処理を行っています。

酵素が不足すれば、老化が早まる


 体内酵素を例えるなら、手に入れた材料をさばき、不要な部分を取り除いて、形を整え、健康維持に必要なものへと加工して提供する、体内の「調理人」のような存在といってよいかもしれません。

 よい食材が手に入れば、できあがる料理もよいものとなりますが、食材の質が悪ければ冴えないものしかつくれなくなります。また調理人の数が減れば、効率よく調理や加工を行うこともできなくなります。

 たとえば動物性タンパク質や脂質といった消化に負担のかかる食べ物、食品添加物や農薬が使われているようなケミカルな食べ物を摂り続ける食生活は、消化にも解毒にも多量の酵素を必要とし、酵素を消費します。

 外から酵素の豊富な食べ物を補給しない限り、消耗した分の埋め合わせは間に合いません。結果的に代謝に回せる酵素が少なくなり老化を加速させることになるのです。
 酵素をムダに使い、補充も不十分といった食生活を続けてきた人は老化のスピードが速まります。このことは、集積された食歴データと腸相の関係からも明らかといってよいのです。つまり、酵素が豊富な食べ物を補給し、酵素を減らさない食べ方をすることによって、健康を維持することができるだけでなく、老化をも遅らせることができるのです。

 なお、今回の記事内容については、10月16日発売の拙著『認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい』(SB新書)でもふれています。あわせてご一読いただければ幸いです。

(了)





認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい
新谷弘実 著



新谷 弘実(しんや・ひろみ)
1935年福岡県出身。医学博士。ベス・イスラエル病院名誉外科部長。米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科元教授。1960年順天堂大学医学部卒業後、1963年に渡米。1968年に「新谷式」と呼ばれる大腸内視鏡の挿入技術を考案し、世界で初めて開腹手術をすることなく内視鏡による大腸ポリープ切除に成功。その技術によりガン発症リスクを大きく減少させ、医学界に大きく貢献する。日米で35万例以上の胃腸内視鏡検査と10万例以上のポリープ除去手術を行ったこの分野の世界的権威。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『胃腸は語る』(弘文堂)、監修に『免疫力が上がる!「腸」健康法』(三笠書房)など多数ある。
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