カルチャー
2015年11月20日
患者を薬漬けにする医学部と製薬会社の都合のいい「正常値」
[連載] だから医者は薬を飲まない【4】
文・和田 秀樹
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正常値や基準値は病人をたくさん作るためのもの?


 小委員会が発表した正常値や判定基準に、日本高血圧学会や日本動脈硬化学会、さらには日本医師会や日本医学会などは黙っていませんでした。「小委員会が発表した内容はエビデンスが高いとは言えない」として批判し、最終的には小委員会のほうが、「今回の数値は基準値となるものではない」という声明を出して、事態は一応収束を見たのです。

 それでも、正常値や判定基準については、うさんくささが拭えないといえます。
 たとえば、高血圧の数値について言えば、1987年に厚生省(当時)が示した基準は上が180でした。それがやがて大した根拠もなく160、140と下がってきたのです。

 先ほどの人間ドック学会や高血圧学会の騒動を見てもわかるように、基準はあいまいで、現在の140という数値も、本当に信頼できるものかあてにはなりません。医者にとってお客さんである〝病人〟をたくさん作るために、高血圧の基準値を下げてきたという見方もできるわけです。

 実際問題として、いろんな学会が発表しているこのような数値で、根拠のあるデータに基づいていると言えるものは少ないという印象があります。年齢差や男女差を無視しているものも多く、そのために高齢者でも若者と同じ数値でなければならないといった、おかしな話になったりするわけです。

なぜ医局は薬を増やす研究をしているのか


「薬が減らないのは、大学病院の医局が薬を増やす研究をしているからだ」
 こんなことを言ったら、皆さんはどう思うでしょうか。

 大学病院のすべての診療科に、それぞれ研究室や医者のグループがあります。それを医局と呼んでいます。教授を頂点とするピラミッド型の組織を連想してもらうと、実態に近いと思います。その医局が、薬を増やす研究をしているとはどういうことなのか、首をかしげる人もいるかもしれません。

 端的に言うと、お金のために薬を増やす研究をしているわけです。これは薬を増やす研究をしている限りは、製薬会社から医局にお金が回ってくるからです。多くは研究費という名目のお金ですが、教授秘書や医局秘書、あるいは研究室のお手伝いをする研究助手も、研究予算の中から給料が支払われています。

 つまり、製薬会社からもらうお金で、医局は賄われているということです。ですから、薬で儲ける製薬会社の意向に沿うように、薬を増やす研究や売れる薬を作る研究をしているということなのです。

 本来、文部科学省や厚生労働省がもっと研究予算を出せば、そういうことをしなくて済む、真面目な医局もあるのでしょうが、与えられる研究予算があまりに少ないために、医局を維持するためには、製薬会社に頼らざるを得ないという気の毒な側面もあります。いずれにせよ、これも薬が減らない理由の1つと言うことができるでしょう。






だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
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