カルチャー
2015年11月25日
医者がひた隠す、健康な人まで"病人"になるカラクリ
[連載]
だから医者は薬を飲まない【5】
文・和田 秀樹
"病人"を作れば薬が売れるというおかしな発想
人間ドックを利用した人の中で、何らかの異常が見つかった人は多いはずです。これは日本人間ドック学会が2014年に発表した「人間ドックの現況」を見ても明らかです。このデータは2014年度に人間ドックを利用した人たちを対象に調査したもので、それによると、検査項目すべてにわたって異常がなかった人は6.6%ということでした。
集計を始めた1984年度の調査では、異常が見られなかった人が29.8%だったということですから、完全な健康体と言える人が23%以上も減ったことになります。
このように全項目で異常がなかった人の割合が少なくなった理由としては、「検査項目が増えたこと」「検査の精度が高くなったこと」「検査基準が厳しくなったこと」「ストレスの増加」「生活習慣の乱れ」「高齢化」「食生活の欧米化」などが挙げられるとされています。
いずれにしても、人間ドックに行くと90%以上の人が、何らかの検査項目で異常が出るというのですから、「検査項目を増やしたり基準を厳しくしたりすることで新たに異常者=病人を作っているのではないか」と考える人もいるかもしれません。「それによって医者も製薬会社も儲かるはずだ」というわけです。
このような考え方に対しては、「陰謀論めいた馬鹿げた話だ」と一笑に付しておしまいにしたいところですが、現実を見ると、あながち頭から否定することもできないように思います。
人間ドックで検査をしてもらうと、ほとんどの人が異常値を指摘されて完全な健康体ではないと教えられるからです。それが気になって病院に行き、薬を処方してもらうというパターンが増えるのは当然ですから、「医療で食っている者たちが病人を作るようなことをしている」という見方をされても、仕方がない面もあるかもしれません。
しかし、医者は本来、病気を治すのが仕事ですから、金儲けのために病人を作るという発想をする人はほとんどいないと思います。ただし、意外に思うかもしれませんが、病人を作ることはしなくても、病名を増やすことはよくあるのです。患者さんが知らないうちに、カルテにはいろんな病名が書かれているのです。
どういうことかと言うと、薬を処方する場合は、必ず病名を付けなければならない決まりになっています。たとえば10個の検査項目に異常が出て、それに対して薬を出すとしたら、10種類の病名を付けることになるのです。
また、異常値が出るということは、何かの病気の疑いがあるということになりますが、「病気の疑いがある」という理由で、薬を処方することはできません。薬を処方するには、「病気の疑い」だけであっても、病名を付けなければならない決まりになっているのです。
たくさんの薬を処方したときに胃が荒れるのを防ぐために胃薬を処方することが多いわけですが、この場合も「胃炎」というように、きちんと病名を付けなければ処方できないのです。自分の知らないうちに、「胃炎」という病気になっているということですが、これもある意味、〝病気を作っている〟ということになるかもしれません。
和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。