スキルアップ
2016年2月9日
竹中平蔵氏が若者に提言「名言で"伝える力"を磨け」
文・竹中 平蔵
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リーダーにとっての「伝える力」を磨く名言


 さて、この3つの条件の中で、「説明する力」は、過去の「名言」に学ぶことができます。

 名言を残せる人というのは、みな見事な言葉でものごとの本質を表わしているものです。それは、人の意識に強く残るような言葉で語っているからです。
 時に正面からズバッと切り込んでいく言葉があり、時にシニカルに語る言葉があり、時にわかりやすくやさしく解き明かす言葉があります。
 名言をじっくり味わうと、それがどれだけ「語る力」を持っているかがよくわかります。
 そのときの表現の仕方、目のつけどころなど、優れた名言からは学ぶべき点が数多くあり、時代や社会が変わっても、心に残るものなのです。

 ここで、リーダーにとっての「伝える力」を磨く名言を2つ紹介しておきましょう。

もし相手を自分の意見に賛成させたければ、
まず諸君が彼の味方だとわからせることだ
──エイブラハム・リンカーン

 アメリカ合衆国第16代大統領のリンカーンは、皆さんもご存知のことでしょう。ダボス会議などに出席して私がいつも感じていることを、見事に言い表わしています。
 世界には、複雑な問題が絶えません。その中で国や人々は対立し、解決策をより難しくしています。そんな中、ダボス会議のミッション宣言には次のように書かれています。

「私たちは、世界をよくすることにコミットする」

 要するに、一見対立する考え方の人々も、この地球社会をよくしたいという共通の思いを持っているはずです。それを、互いに一人の人間同士として確認し、少しでも前進しようではないか......。

 それがダボス会議の目指すところです。だから参加者は、原則として秘書も連れず、どんなステイタスの高い人も一人の個人として参加するのです。原則として、パワーポイントなどによる系統的な説明もありません。相手の目を見ての、真の対話です。

 リンカーンの言葉は、具体的な議論の大前提として相互の信頼感を醸成することがいかに必要か、わかりやすく述べています。最終的に彼は、そうした信頼感のかけらもない暴漢に銃殺されてしまうのですが、だからこそ彼のこの言葉は、大きな重みを感じさせてくれます。

 事態をよりよくしたいのであれば、時間がかかっても関係者とよく話し合い、個人として信頼を得て、現状より少しでも前進していかなくてはなりません。会議とは、そうした場であるべきです。
 会議を、単に不毛な主張合戦の場にしないように、原点に返って努力する必要がありますね。



不安な未来を生き抜く知恵は、歴史名言が教えてくれる
「明日を変える力」を磨く55の言葉
竹中 平蔵 著



竹中平蔵(たけなか へいぞう)
慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所所長。1951年和歌山県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒業。同年、日本開発銀行入行。その後、大蔵省財政金融研究所、大阪大学経済学部助教授、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを歴任。98年に「経済戦略会議」メンバーとなる。2001年に経済財政政策担当大臣に就任し、金融担当大臣、経済財政政策・郵政民営化担当大臣、総務大臣などを務め、小泉純一郎内閣の「構造改革」を主導した。06年より現職。博士(経済学)。ほかに、アカデミーヒルズ理事長、一般社団法人日本経済研究センター研究顧問、株式会社パソナグループ取締役会長、オリックス株式会社社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを兼務。著書多数。
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