スキルアップ
2016年2月9日
竹中平蔵氏が若者に提言「名言で"伝える力"を磨け」
文・竹中 平蔵
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リーダーの有り方がわかる名言


 もう1つ、今度はユニークな形でリーダーの有り方がわかる名言です。

今や官僚は過去官僚(過去完了)、
前例がないと同じことばかり言う旧官庁(九官鳥)である
──加藤 寛

 慶応大学教授を務められた故加藤寛先生は、私にとっても大恩人です。ちょうど私がハーバード大学の客員准教授としてボストンで教えている時、「日本で最初の政策学部(慶応SFC)をつくります。日本に戻って参加してくれませんか」とお電話をいただいたことを思い出します。2013年にお亡くなりになりましたが、日本にとって本当に大切な方を亡くした、と感じています。

 この名言は、いうまでもなく官僚の時代は終わったこと、官庁が旧態依然としていて改革の足を引っ張っていること、前例主義が今も蔓はびこ延っていること、などを伝えるものです。同時に、私たちにとって、とても加藤先生の真似はできない、と感じさせる2つのことが、この名言に示されていると思います。

 第一は、ものごとの本質をズバリついて批判する志の強さです。官僚の中にもいい人はいるし、よく議論する顔見知りもたくさんいます。したがって、官僚との付き合いが長くなると、人間としてついつい言葉が鈍りがちになるものです。しかし加藤先生は常に、決して怯ひるむことなく改革を主張してこられました。

 あらためていうまでもないことですが、1980年代の国鉄民営化は、この加藤先生を理論的支柱として行なわれました。途中の議論では、本当に灰皿が投げつけられるような場面もあったと聞きました。そうしたことを乗り越えて、国鉄民営化は行なわれたのです。

 第二は、加藤先生はそれでも多くの方々から「愛すべき人物」と見られていた点です。その一つの理由が、この名言のような言い回しに込められています。批判されている立場の人から見ると非常に頭に来るけど、でもなんだか「フッ」と笑ってしまう...。加藤先生の言葉は、決してダジャレでは済まされない深みを持っています。また、絶妙の味わいがあります。

 こうした鋭さと人間味を合わせもつ人こそ、人がついていくリーダーになるのでは ないでしょうか。

(了)


不安な未来を生き抜く知恵は、歴史名言が教えてくれる
「明日を変える力」を磨く55の言葉
竹中 平蔵 著



竹中平蔵(たけなか へいぞう)
慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所所長。1951年和歌山県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒業。同年、日本開発銀行入行。その後、大蔵省財政金融研究所、大阪大学経済学部助教授、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを歴任。98年に「経済戦略会議」メンバーとなる。2001年に経済財政政策担当大臣に就任し、金融担当大臣、経済財政政策・郵政民営化担当大臣、総務大臣などを務め、小泉純一郎内閣の「構造改革」を主導した。06年より現職。博士(経済学)。ほかに、アカデミーヒルズ理事長、一般社団法人日本経済研究センター研究顧問、株式会社パソナグループ取締役会長、オリックス株式会社社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを兼務。著書多数。
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