カルチャー
2018年3月19日
健診でオールAほど早死にしやすい本当の理由
『やってはいけない健康診断』より
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「健診オールA=数値が全部低い」という危険性


精神科医として長年、老人医療の現場に携わる和田秀樹氏。医療ビジネスのターゲットが老人から働き盛りの40、50代へシフトしている現状を懸念する

 健康診断の評価が「オールA」とは、健診のデータが理想とされる基準値内にすべて収まっているということだが、近藤氏と和田氏はこれでは「数値が全部低い」と見ている。さらに近藤氏は健康診断、人間ドックの基準値について、前出の編集部員の健診データを基に鋭く切り込んでいく。

近藤 基準値ってどれも、いいかげんに定められているからね。基準値には、健康な人を数千、数万と集めて調べて、数値の高い人と低い人、上下2.5%ずつを除いた95%で自動的に決まるもの。あと、学会が独自に定めているものがあります。血液検査の基準値は95%方式が多い。

編集部 僕の血液検査は、全部で35項目ありますね。

近藤 そのうち95%基準によって判断されるのが24項目。残りのうち5項目は、血糖、コレステロールや中性脂肪など、各学会が勝手に基準値を定めているため、多数が「異常(基準値外)」と判定されるもの。仮に全部が95%基準で判断されるとしても、10項目調べると、ひとつ以上が「異常」な人が4割。30項目調べると、8割の人はどれかひとつ以上が「異常」となってしまいます。人間ドックで肺や胃の検査など、さらに詳しくいろいろ調べると、「全項目異常なし」の人はたった5~6%。ほとんどが「病人」にされてしまうわけ。だけど考えてみたら、正常な人たちを検査して95%で区切っているんだから、実は残りの5%の人も正常なんです(笑)。

編集部 あ、確かに。

 血液検査だけで35項目。ほかの検査も合わせると、「全項目異常なし」の人はたった5~6%となってもおかしくないように思えるが、9割以上の人が病人にされてしまうことに、かなりの違和感を覚える人も多いだろう。この点について、近藤氏はどう考えているのだろうか。

近藤 背の高い低いと同じように、体のいろいろな数値はその人が持って生まれた個性で、正常も異常もない。バラつきがあって当たり前です。別のたとえで言うと、なにかの議論の場におおぜいがいて、どの問題にも全員の意見が一致するのはおかしい、みたいな話です。95%基準の場合、健康な人がいっぱい検査したら、いくつかの項目が基準から外れるほうが自然なんです。全部基準値の中に収まっているほうが、実は異常。

編集部 健診の「オールA」って、そういうことでしたか! つまり僕は"異常"だったんですね(笑)。

近藤 それから、血液検査以外の基準値......BMIとか腹囲、血圧、空腹時血糖、ヘモグロビンA1C(平均血糖値)、悪玉コレステロール、中性脂肪なんかは「日本高血圧学会」や「日本糖尿病学会」などの学会が、「こんなところにしておきましょう」って政治経済目的で決めているから、根拠も意味もないの。健康人の長期調査データを見ると、悪玉コレステロールも中性脂肪も、高い人たちのほうが元気で長生きしています。あなたは血圧もちょっと低いですね。

編集部 上が102(㎜Hg)。

近藤 高血圧学会は上が130、下が85を超えると「血圧が高め」、上が140、下が90を超えると「高血圧」の治療を勧めているけど、実は高めの人のほうが元気なんだ。年を取るほどそれが言えて、75歳以上では、上の血圧が180以上ある人たちがいちばん長生きしています。昔は上の血圧の目安は「年齢プラス90~100」で、それは理に適っていました。

編集部 健康診断の数値は「低いことがいいことだって」みんな思い込んでますね。

近藤 それは長い時間をかけて、刷りこまれてきてるから。とにかく「数値が全部低い」っていうのは危ない。むしろ警戒しなきゃね。



やってはいけない健康診断
早期発見・早期治療の「罠」
近藤 誠・和田 秀樹 著



近藤誠(こんどう・まこと)
1948年東京都生まれ。近藤誠がん研究所所長。73年慶應義塾大学医学部卒業、同大学医学部放射線科入局。79~80年アメリカ留学。83年から同医学部放射線科講師を務める。乳房温存療法のパイオニアとして知られる。96年の『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋)以降、医療界にさまざまな提言を行っている。2012年には第60回菊池寛賞を受賞。14年慶應義塾大学医学部を定年退職。13年「近藤誠がん研究所 セカンドオピニオン外来」を開設している。

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て現職。
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