カルチャー
2018年3月19日
健診でオールAほど早死にしやすい本当の理由
『やってはいけない健康診断』より
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健診、人間ドックに延命効果を証明するデータは皆無


 「基準」「正常」という言葉に弱い日本人。健康診断においても「正常値神話」が根付いているが、お二人が話しているように、本当の意味で健康な人が、健診の基準値に合わせるためにクスリを飲めば、かえって調子が悪くなってしまう。これでは「早期発見・早期治療」のために人間ドックを受けても、病人にされかねない。延命の効果など、期待するほうがおかしいだろう。実際、お二人は健康診断、人間ドックに対して「延命効果を証明するデータは一切ない」と話している。

和田 だいたい日本では、血圧や血糖値の基準値は適切なのか、検査数値をクスリで下げたら延命するのか、っていう根本的な議論や調査が、ほとんどされないですよね。

近藤 健診も人間ドックも「病気を早いうちに見つけて、早く治療すれば寿命が延びるはず」っていう思いつきから始まってね。50年以上続いてきてるけど、延命効果を証明するデータは、一切なにもないんだ(笑)。日本の医療システムは「病気を未然に防ぐ」という大義名分の上に築かれているけれど、ホンネは「予防」じゃなくて、患者を「呼ぼう」(苦笑)。(グラフ2)

■グラフ2 ※クリックすると拡大

和田 病人は増える一方です。

近藤 健診が、「健康人」を「病人」に仕立てて金を儲ける錬金術になって、人々は、その被害者なんです。アメリカやフィンランドなどの医学の世界では、「健康診断をいくらやっても寿命は延びない」というしっかりしたデータがいくつも出ている。そのことは、日本の医療界のトップたちはよく知っています。

和田 でも、なんの動きも起こらない。

近藤 健診がなくなったら日本の医療が崩壊するほど大きな、経済的支えですから。

 『やってはいけない健康診断』を読み進めていくと、このことを証明するかのように、根拠もなく健診の基準値が下がっていき、健康な人が病人にされているのがわかる。そして、そのことによって日本医療の闇、大きなカネが動いていることをお二人は指摘している。

近藤 日本の高血圧の基準値は長い間、上は160だったのに、2000年には140に、2008年から始まったメタボ健診では130に、どんどん下がっていってね。そしてどうなったか。国内の降圧剤の売上は、1998年にはおよそ2000億円だったのが、08年には1兆円を超えたんだよね。

和田 製薬メーカーも医療界も、笑いが止まらなかったでしょう。血圧やコレステロール値の変動は加齢による自然な変化なんだけど、基準値さえあれば、いくらでも病気扱いにできます。

近藤 血圧の基準値を10下げると、新たな高血圧患者が1000万人生まれるんだから、すごいよね。数字をちょちょっといじれば1000万人。

和田 なんの苦もなく高血圧患者を量産できる。

近藤 日本の医療ワールドはみんな持ちつ持たれつだから。

和田 製薬会社と大学病院と学会がズブズブであやしい基準値を掲げ続け、ムダな検査、ムダな投薬を続けています。

近藤 そして心配性の国民はひんぱんに検査を受けて、みんな「異常」を指摘されて寿命を縮めているわけだ。だから、僕は「医者にかからない」「健診などの検査を受けない」「クスリを飲まない」と決めて40年、病気で仕事を休んだことは一度もありません。

和田 おっしゃる通りだと思って、僕ももう5年以上、健康診断は受けていません。

──このように『やってはいけない健康診断』(SB新書)では、健康診断や人間ドックを受診すると「寿命がのびる」「健康になる」という迷信について、矛盾点を容赦なく指摘していく。健康にもかかわらず「検査病」という病気にされないためにも、本書で健康診断や人間ドックの真の正体を知っておいても損はないだろう。

(了)


やってはいけない健康診断
早期発見・早期治療の「罠」
近藤 誠・和田 秀樹 著



近藤誠(こんどう・まこと)
1948年東京都生まれ。近藤誠がん研究所所長。73年慶應義塾大学医学部卒業、同大学医学部放射線科入局。79~80年アメリカ留学。83年から同医学部放射線科講師を務める。乳房温存療法のパイオニアとして知られる。96年の『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋)以降、医療界にさまざまな提言を行っている。2012年には第60回菊池寛賞を受賞。14年慶應義塾大学医学部を定年退職。13年「近藤誠がん研究所 セカンドオピニオン外来」を開設している。

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て現職。
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