ビジネス
2014年6月16日
一瞬で決算書を読み解く国税調査官の「目線」
[連載] 一瞬で決算書を読む方法【3】
文・大村大次郎
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国税調査官は実は会計の知識がそんなにないにもかかわらず、会社の数字の嘘を瞬時に見抜いています。そのスキルは知識や時間のないビジネスパーソンにうってつけのものといえるでしょう。本連載では、元国税調査官で新書累計70万部のベストセラー作家・大村大次郎の最新刊『一瞬で決算書を読む方法』から、「あまり勉強せずに会社の業績を読めるようにしたい…」「会社が公表する決算書に騙されたくない…」人向けに、決算書を読むツボを紹介していきます。


決算書でもっとも大事なのは「個別の事情」


 前回まで、国税調査官は、極限までポイントを絞り込んで決算書を短時間で読み解く、ということを述べた。では次に、国税調査官が決算書を見るときのポイントとは、具体的に何か? ということをご説明したい。

 決算書を読み解く際に、国税調査官がもっとも重視しているのは、その企業の「個別の事情」である。

 企業には、それぞれ個別の事情がある。それを無視して、単に標準的な数字だけを見て、高いか低いかを分析しても無駄なのである。

 たとえば、企業分析をする場合に、よく用いられるのが「同業他社との比較」である。「同業他社との比較」というのは、その名の通り、その企業と同じ業態の企業の平均値などを持ち出して、比較検討することである。

 しかし、同業他社との比較は、筆者の経験上、あまりあてにならないことが多いのだ。同じ業種の企業であっても、その経営形態には多くの違いがある。

 たとえば建設業などは、自社の社員は非常に少なくほとんどを下請けに任せている企業もあれば、多くの社員を抱えて仕事のほとんどの業務を自社の社員で行う、という企業もある。

 両者は、一般管理費の割合などがまったく違ってくるし、必然的に財政構造もまったく異なるものとなる。前者では人件費の割合が非常に大きくなるし、後者では人件費の割合は非常に小さく、代わりに外注費の割合が非常に大きくなる。利益率なども大きく違ってくるものだ。

 そういう両者を単純に決算書の数値だけで比較するのは、ナンセンスだといえる。

 だから、国税調査官が決算書を見る場合、まず「個別の事情」に注意を払うのだ。

株主構成によって企業決算はまったく違ってくる


 企業の個別の事情を知る際に、もっとも手っ取り早いのは「株主構成」を見ることである。

 「株主構成」は、上場企業ならば誰でも簡単に見ることができる。市販されている株式関連の情報誌にはたいがい載っている。

 また、上場企業の決算書を見られるサイト「EDINET」には、「大株主の状況」というものがある。これには株主の上位10位までの氏名、名称が記載されている。

 実は、この「株主構成」というのは、会社の数字を見るうえで欠かすことのできない項目である。というのも、株主構成によって、決算書の傾向はまったく違うものになるからだ。

 たとえば、創業者が大株主になっていて経営の実権を創業者が握っている企業では、粉飾はあまり行わない。こういう企業は、収益をあげて株価を上げる必要はあまりないからだ。大株主と経営者が同じなのだから、経営者は株主の機嫌を取る必要はない。

 だから、無理に収益を出すよりも、健全な経営をしようとする。下手に収益を出して、税金に取られるよりも、経営者の報酬を厚くするなど、経営者が自分に利する会計を行なおうとするのだ。

 また、大株主は銀行で、ほとんど銀行の支配下にある企業などでは、これとは逆の傾向になる。オーナーである銀行の心象をよくするために、一生懸命に収益を上げようとする。経費を削減し、不採算部門を切り捨てたり、大掛かりなリストラをしたりなどもする。当然のことながら、脱税をするよりは、粉飾の方向への会計操作を行うのだ。

 このほかにも、株主構成によってさまざまな企業の特色の違いが出てくるのだ。






一瞬で決算書を読む方法
税務署員だけのヒミツの速解術
大村大次郎 著



【著者】大村 大次郎(おおむら おおじろう)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(以上、中公新書ラクレ)、『税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ』(双葉新書)、『無税生活』(ベスト新書)、『決算書の9割は嘘である』(幻冬舎新書)、『税金の抜け穴』(角川oneテーマ21)など多数。最新著書は『一瞬で決算書を読む方法』(SB新書)
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