ビジネス
2014年7月15日
「第4四半期」を見れば決算書の嘘はわかる――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(3)
[連載]
一瞬で決算書を読む方法【7】
文・大村大次郎
国税調査官は実は会計の知識がそんなにないにもかかわらず、会社の数字の嘘を瞬時に見抜いています。そのスキルは知識や時間のないビジネスパーソンにうってつけのものといえるでしょう。本連載では、元国税調査官で新書累計70万部のベストセラー作家・大村大次郎の最新刊『一瞬で決算書を読む方法』から、「あまり勉強せずに会社の業績を読めるようにしたい…」「会社が公表する決算書に騙されたくない…」人向けに、決算書を読むツボを紹介していきます。
「業界の景気が悪いのに利益が落ちていない会社」は要注意!
決算書の嘘を見破るには、その企業の決算書を見るだけでなく、その企業の属す業界全体の景気はどうなのか、を知ることも大事である。
簡単に言えば、業界の景気がいい場合は、その業界内の企業も景気がいいし、業界全体の景気が悪い場合は、その企業も景気は良くないのである。
景気が悪い業界なのに、そういう企業が、全く利益が落ちていない、などということであれば要注意である。
これは当たり前といえば、当たり前である。
ただし、景気が悪い業界でも、その企業だけが正当な理由があって、景気がいい場合もある。
「業界は景気が悪いが、その会社はいち早く新商品を開発し、売れている」
などの理由がある場合である。
しかし、普通は粉飾していると思ったほうがいいだろう。
また、景気が悪い業界の企業は、得てして粉飾に走りやすいものである。これも念頭に置いておくべきだろう。
たとえば、バブル崩壊後は、不動産業などの粉飾が非常に多かったのである。
何度か触れたが、企業の動きというのは、実は驚くほど単純である。
景気が悪い企業は粉飾をしたがるという習性があるからだ。だから、景気が悪い業種は、あらかじめ「厳しい目」で見るべきだと言える。
逆に言えば、景気の悪い業界の企業の決算書が、業績面で悪化しているのなら、その企業は正直だと言うこともできる。そういう企業は、改善策も素早く打てる可能性が高く、有望だと言える。
「理由もなく利益が急増している会社」も要注意!
「理由もなく利益が急増している会社」
というのも、粉飾の疑いが濃く、要注意である。
本来、売上や利益が急増している企業には、必ずその理由があるはずである。
新商品の売れ行きがいいとか、現在、流行に乗っているとか、最近、会社の評判が非常に良くなっている、などである。
しかし、決算書を読み解くうえでは、なかなかそこまで気が回らないことが多い。決算書上で業績がいいというだけで、「ああ、この企業は景気がいいんだな」と信じてしまう。
しかし、景気がいい理由をきちんと把握していなければ、会社にまんまと騙されてしまうこともあるのだ。
全く理由がないのに、売上や利益が急増している会社は、まず疑ってかかったほうがいいだろう。
特に上場を目指しているような企業は、要注意である。
たとえば、こういう例があった。
2007年に倒産したIT企業、アイ・エックス・アイのことである。
1989年に創業したアイ・エックス・アイは、コンピュータ機器の販売、LAN工事などの情報サービス事業を展開していた。
飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長し、2002年にはナスダック・ジャパンに上場、2004年には東証二部に上場した。
しかし、急に会社を大きくした無理がたたってか、2005年くらいから粉飾を始め、2006年の暮れにそれが発覚。翌2007年に倒産したのである。
アイ・エックス・アイは上場を急ぎ、株価の上昇を求めるあまり、粉飾に手を出したようである。
表を見ればわかるように、アイ・エックス・アイは2001年3月期から2006年3月期まで、急激に売上を伸ばしている。
しかし、この間にアイ・エックス・アイが取り立てて優れた商品開発(技術開発)をしたということはないのである。
つまり、理由もなく業績が急成長していたのである。ナスダック、東証と上場していくために、無理やり売上を伸ばしたものと考えられる。
この売上増は全部が全部粉飾ではないかもしれない。
しかし、この急激な増加の裏で、何か無理なことをしていたのは間違いないだろう。支払いなどの面で破格の条件をつけたり、さまざまな好条件をつけて、無理に売上を伸ばそうとしたことが考えられる。
いずれにせよ、「正当な理由もないのに急に業績が上がっている企業」というのは、怪しいと思ったほうがいいのである。
[連載]一瞬で決算書を読む方法 記事一覧
[1]国税調査官に学ぶ、一瞬で決算書を読み解く方法
[2]一瞬で決算書を読んで「儲かっている会社」を見抜く方法
[3]一瞬で決算書を読み解く国税調査官の「目線」
[4]吉本興業は決算書までおもしろい!
[5]一瞬で儲かっている会社を見破る方法――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(1)
[6]「売上」と「利益」だけで瞬時に決算書の嘘は見抜ける!――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(2)
[7]「第4四半期」を見れば決算書の嘘はわかる――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(3)
[8]意外! 税務署は決算書の「原価率」までちゃんと見ている――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(4)
[9]税務署は決算書の「株主構成」を真っ先に見ていた――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(5)
[10]上場を目指す会社はなぜ、粉飾が表れやすいのか?――国税調査官だけのヒミツの決算書速解術(6)
[1]国税調査官に学ぶ、一瞬で決算書を読み解く方法
[2]一瞬で決算書を読んで「儲かっている会社」を見抜く方法
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【著者】大村 大次郎(おおむら おおじろう)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(以上、中公新書ラクレ)、『税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ』(双葉新書)、『無税生活』(ベスト新書)、『決算書の9割は嘘である』(幻冬舎新書)、『税金の抜け穴』(角川oneテーマ21)など多数。最新著書は『一瞬で決算書を読む方法』(SB新書)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(以上、中公新書ラクレ)、『税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ』(双葉新書)、『無税生活』(ベスト新書)、『決算書の9割は嘘である』(幻冬舎新書)、『税金の抜け穴』(角川oneテーマ21)など多数。最新著書は『一瞬で決算書を読む方法』(SB新書)