カルチャー
2014年6月25日
意外!? インフルやノロも半日で治す「漢方薬」の速効性
[連載] 西洋医が教える、本当は速効で治る漢方【1】
文・井齋偉矢
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漢方薬と聞くと、じっくりと体質を改善する薬という認識が強いが、意外にも速効性があることはご存じでしょうか? 『西洋医が教える、本当は速効で治る漢方』の著者で、「サイエンス漢方処方」を提唱する第一人者である井齋偉矢が、その理由を解説します。


漢方薬は古来から急性期の薬だった


 私は日常の診療で、急性の病気に漢方薬を積極的に処方しています。漢方薬を飲んでもらうだけで、肩こりなら1時間、単純なめまい発作なら2時間、急な動悸では10分、こむら返りに至ってはわずか5分くらいでよくなります。また、インフルエンザによる発熱や、ノロウイルスによる下痢・嘔吐も、ほぼ半日でたいてい鎮静化し、翌朝にはすっかり元気になって、患者さんたちはもりもり食事をとっています。

 こうしたお話しをすると、医者を含めて誰もが一様に目をまるくして驚きます。「漢方薬って、慢性疾患の人が長くじっくり飲み続ける薬じゃないの?」というわけです。

 確かに現在の日本では、急性期の患者さんに漢方薬が処方されることは一般的ではありません。急性期の病気は西洋薬で治すのが当たり前で、「漢方薬でのんびり対応している場合じゃない」というのが一般的な認識でしょう。漢方の看板を掲げている医療機関でさえ、その大半は慢性疾患の患者さんを対象としています。

 しかし、漢方の歴史を振り返ると、漢方薬は最初から急性期の病気を標的に開発された薬だったことがわかります。漢方は中国の伝統医学(中医学)をルーツとしていますが、本家・中国ではおよそ二千年前に、漢方治療の原典ともいうべき『傷寒論(しょうかんろん)』が編纂されました。その編者であり、医者でもあった張仲景(ちょうちゅうけい)は、前文で次のように述べています。

 「わが一族は以前二百余名もいたが、10年足らずの間に3分の2が死亡した。このうち、傷寒病で死んだ者が7割を占めている」

 傷寒病とは、急性熱性疾患(感染症)を指します。当時は、腸チフスやコレラなどの細菌感染による急性熱性疾患で死亡するケースが多く、平均寿命は20~30歳だったと推測されています。

 このような時代、薬に対して求められる第一の使命は速効性です。急性胃腸炎における嘔吐や下痢が治らなければ、それは「死」を意味します。とくに子どもにおいてそれが深刻でした。

 そんな状況において、長く飲み続けるとじっくり効いてくる薬など、いったい誰が必要とするでしょう。とにかく、生きるか死ぬかの急病人に対して一包で、あるいは一両日で明らかな効果がなければ何の意味もなかったはずです。

 そこで、より速効性があり、より効果のある薬剤だけが長い歳月をかけて取捨選択され、『傷寒論』に収載されていったのでしょう。実際に『傷寒論』で取り上げられている漢方薬のレシピは、ほとんどが急性熱性疾患の治療薬です。つまり、漢方はその黎明期から救急医学であり、漢方薬の真骨頂は急性疾患の治療なのです。

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西洋医が教える、本当は速効で治る漢方
井齋偉矢 著



【著者】井齋偉矢(いさいひでや)
1950 年、北海道生まれ。北海道大学卒業後、同大学第一外科に入局。専門は消化器外科、肝臓移植外科で日本外科学会認定専門医。1989 年から3 年間オーストラリアで肝臓移植の臨床に携わる。帰国後独学で漢方治療を本格的に始め、現在、日本東洋医学会認定専門医・指導医。2012 年にサイエンス漢方処方研究会を設立し理事長を務める。医療法人静仁会静仁会静内病院(漢方内科・総合診療科)院長。著書に『西洋医が教える、本当は速効で治る漢方』がある。