スキルアップ
2015年6月16日
竹島より深刻! 中国にすり寄る韓国の知られざる領有権問題
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【7】
文・松本利秋
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日本の安全保障上の役割を認めない韓国


 このまま韓国の中国シフトが強まり、もし済州島に中国海軍の基地ができるような事態にでもなれば、日本が中国の外洋進出を阻止するための、尖閣の戦略的な意味は一気に消滅し、日本にとっては悪夢となる。

 言うまでもなく、米韓軍事同盟と日米安保条約は、北朝鮮からの軍事攻撃に備えたものである。朝鮮半島有事の際には日本はその兵站基地となり、出撃基地としての役割を果たすことになっている。

 具体的には、航空自衛隊は福岡県の築城(ついき)、芦屋(あしや)、山口県の防府北(ほうふきた)の3ヵ所に2000メートル級の滑走路を置き、海上自衛隊の大村基地(長崎県)、陸上自衛隊の目達原(めたばる)基地(佐賀県)、高遊原(たかゆうばる)基地(熊本県)および在日米軍が使う板付(いたづけ)基地(福岡空港)を合わせると、北九州に7ヵ所もの航空機発進基地が存在している。

 これらの基地は、朝鮮半島で戦闘が起こった場合、米軍の戦闘機や輸送機が発着する拠点として活用されるのはもとより、韓国民を含む避難民の受け入れ基地としても活用される。さらには福岡病院、大分別府病院、長崎佐世保病院、熊本病院という4ヵ所の自衛隊病院が活用されるだろう。

 また朝鮮半島と向き合う長崎県佐世保基地は、米海軍第七艦隊の戦略拠点であり、広大な佐世保湾の大半は、半島有事に緊急展開する米軍が占有したままだ。軍事的な観点に立つ限り、韓国に対して日本の役割は極めて重要であり、韓国防衛を担う在韓米軍にとっても、必要不可欠な存在となっているのだ。

 この件に関して、2014年の秋の国会で、安倍首相は「米海兵隊は、日本との事前協議なしには、韓国に駆け付けることはできない」という韓国にとって実に衝撃的な発言をしている。その発言を受けて、韓国メディアはこれを大きく取り上げて大騒ぎした。半島有事の際に、米軍の韓国支援を安倍首相が事実上コントロールできるとしたことに恐れをなしたからだ。

 日米の交換公文によれば、在日米軍が日本から行なう戦闘行為は、日米の事前協議の対象となっているとした一般事項であり、その趣旨は日本がアメリカに白紙委任はせず、自国の安全保障の観点から決定を下すということである。日本の安全保障が成立するかどうかを日本政府が判断し、在日米軍の出動その他の作戦行動を決定できるのだ。ここに韓国の安全保障における日本の重要性があるのだ。それだけでなく、韓国は韓国領域外での韓国近海で、自衛隊が米軍を援護するための集団的自衛権の行使にも反対の立場を執っている。

 韓国は日本が自国領内で集団的自衛権を行使することに強く反対しており、この安倍発言はそれへの意趣返しであるとして、相変わらず狭量な見解で捉えていた。
 国際法の原則に従えば、攻撃を受けている側から援護要請があって、初めて集団的自衛権の行使の前提条件が満たされることになっている。逆に言えば、ある特定の国から援護されたくないという自由も認められている。

 従って現状のままなら、韓国は日本の援護を必要としていないという意思表示ということになる。しかし、米軍支援のために、自衛隊の集団的自衛権の行使も認めないというのは、度を超した言いがかりでしかない。

 歴史的に見ても、朝鮮半島の安全保障は、日本の安全にとって重要だ。日清戦争、日露戦争も朝鮮半島の安全保障が、日本にとって重要課題と認識したから起こったことで、日本の安全保障は一貫して朝鮮半島と連動していると見てきたのは明らかだ。

 しかし、韓国がこのような感覚を共有しているかは、はなはだ疑問だ。その具体的な証拠としては、韓国のアサン政策研究所が行なった2013年の世論調査では、日本を韓国の脅威とみなす韓国人が55%に達している。この数字は中国を脅威とみなす韓国人より、わずかに4%低いだけである。

 さらに2014年の調査では、韓国人の66.8%が日本の安全保障上の役割に否定的であり、60.6%が日本の役割増大に対するアメリカの支持に否定的である。また、79.3%の韓国人が、日米間の安全保障協力が強化された場合には、韓国は中国と安全保障協力を強化する必要があると答えていることが挙げられる。

 韓国民は自国の安全保障にとって、日本や日米同盟が果たしている役割を認めず、日本の潜在的脅威や歴史問題、竹島を巡る問題のみに焦点が当てられ、冷静な判断力に欠けていると思われる。

 日本は北朝鮮問題解決などに韓国の協力が得られず、韓国が中国とともに日本に敵対する勢力となる可能性を考えれば、ベトナム戦争の敗北で南ベトナムを失ったアメリカが、ソ連とのバランスを保つために中国に接近したように、冷徹なパワー・バランス戦略を執るのも一つの方法だろう。

 その意味では、論理的には日本にはロシアとの連携が効果的だという結論が導き出されるであろう。中韓vs.日露の構図が構築できれば、中韓の反日共同戦線への対抗軸ができるからである。

 なお、「逆さ地図」で世界情勢を読み解く意義については、拙著『「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質』(SB新書)で、カラーの「逆さ地図」付きで解説している。ぜひご一読いただきたい。

(了)





「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。
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