カルチャー
2015年10月22日
欧米型の食生活が「認知症」を近づける!
[連載] 認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい【4】
文・新谷弘実
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腸相がよいほどミトコンドリアが効率よく働く


 腸相をよくしていくことは、60兆個の細胞それぞれが必要な活動を元気に行っていくうえで大変重要です。個々の細胞は、ひとつの生命体として栄養と酸素の補給、老廃物の排泄、そしてエネルギー産生を行っています。

 細胞に必要な栄養素を食物から吸収し、血液に乗せて送り届けているのが腸ですから、腸と細胞は深い関係にあるといっても言い過ぎではありません。腸が汚れているような状態にあれば、細胞とのよい関係にも支障が出てくるのです。しかも腸内細菌がつくり出す体内酵素は、細胞の活動に大きな役割を果たしています。

 たとえば細胞内には、活動のためのエネルギーを産生するミトコンドリアという器官があります。腸によって吸収された食物の栄養素は、酸素とともに血流に乗って細胞へと運ばれ、ミトコンドリア内で、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー源に変換されます。それがADP(アデノシン二リン酸)へと分解される際エネルギーが生じ、そのエネルギーによって、細胞は人体組織の構成や生命維持に必要なさまざまな活動を行っているのです。

 こうしたエネルギー産生の過程において活躍しているのが、ミトコンドリア内に埋め込まれている酵素群やATP合成酵素などです。つまり体内酵素があるからこそ、ミトコンドリアでのエネルギー変換がスムーズに進み、身体の細胞も脳細胞も元気に働けるということなのです。

 さらに腸の環境がよく、腸内細菌が元気でいてくれることは細胞内のデトックスを促進して、ミトコンドリアの活動をより活発にしてくれます。

 細胞内には、数々のゴミが絶えず生じます。体組織や器官を構成するタンパク質を合成する際に出てきてしまう「不良タンパク質」、活性酸素によって傷ついたタンパク質、老朽化したミトコンドリア、細胞内に侵入してきた異物といったものです。

 細胞内にゴミが溜まると、言うなれば細胞が便秘状態となり、細胞を老化させる大きな原因となります。ですから、きれいに取り除いていかなくてはならず、細胞はそのためのシステムを自らの中に備えているのです。

 たとえば細胞の中のゴミは、リソソームという器官によって、袋状の膜に取り込まれた後に分解されます。そこではリソソーム内の60種類にのぼる分解酵素群が活躍しているのですが、これらの酵素群は、ゴミの分解だけではなく、分解したタンパク質を素材として、身体に必要なタンパク質を再合成する働きも行っています。

 またこれとは別に、プロテアソームという巨大な酵素複合体が、不良タンパク質をバラバラに分解して細胞内から取り除いていくデトックスシステムも備わっています。

 このように細胞内は酵素の力を借りて常にクリーニングされ、ミトコンドリアが効率よく働けるようになっているわけです。

 腸相をよくして、体内酵素がたくさんつくられる状態にしておくことは、最終的に細胞を若返らせていくことにもつながります。認知症になるかならないか、病気になるかならないかは、すべて腸が握っているのです。

 なお、今回の記事内容については、10月16日発売の拙著『認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい』(SB新書)でもふれています。あわせてご一読いただければ幸いです。

(了)





認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい
新谷弘実 著



新谷 弘実(しんや・ひろみ)
1935年福岡県出身。医学博士。ベス・イスラエル病院名誉外科部長。米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科元教授。1960年順天堂大学医学部卒業後、1963年に渡米。1968年に「新谷式」と呼ばれる大腸内視鏡の挿入技術を考案し、世界で初めて開腹手術をすることなく内視鏡による大腸ポリープ切除に成功。その技術によりガン発症リスクを大きく減少させ、医学界に大きく貢献する。日米で35万例以上の胃腸内視鏡検査と10万例以上のポリープ除去手術を行ったこの分野の世界的権威。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『胃腸は語る』(弘文堂)、監修に『免疫力が上がる!「腸」健康法』(三笠書房)など多数ある。
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