ビジネス
2013年11月6日
伝説の投資家が語る
混迷する市場の見極め方
『冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート』より
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ウォール街の生きる伝説の投資家にして、ベストセラー作家でもあるジム・ロジャーズ。混迷を極める世界経済を、彼はどう分析するのか。需要と供給の法則について、過去の失敗を例に紐解いていきます。


需要と供給の法則には逆らえない


 近い将来、食品の価格は上がるはずである。世界中の食物の備蓄がとても少ないからというのが理由の1つだ。自然が味方してくれずに、ブラジルで雨が降らなかったりすると、私たちが頼れる食物の備蓄はさらに減り価格はさらに上がるだろう。政治家は物価の上昇を邪悪な投機家のせいにするが、実は物価が上がらなくては農家は生産してくれないのである。「小麦がたった3ドルにしかならない」とぼやく貧しい農家が、育てるのに4ドル(かそれ以上)かかる小麦を生産するわけがない。だが、もし小麦価格が8ドルになれば、世界中の小麦農家や小麦を栽培していない農家ですら小麦を作ろうと思うだろう。

 すると私たちはパンの値上がりにいらつく。だが私たちがパンに大した金額を払わないと、やがてパンはまったく手に入らなくなるだろう。この数千年、世界はそうやって動いてきた。ソ連の人びとが物を手に入れられなくなってしまったのは、旧ソ連の共産主義者が需要と供給の法則を覆そうとしたせいだ。旧ソ連では物不足が日常と化してしまったのである。ロシアでは、トマトでも何でも手に入れようとすると列に並んで2、3時間待たねばならない。街を歩いていて店の前に行列を見かけたら、何を売っているかはさておき、とにかく列に並ぶ。行列ができるということは何かが店に入ったということで、品物が何であれ手に入れる必要がある。たとえそれが自分には必要ないものであったとしてもである。たとえばあなたが男性で、店に入ったのが女物の衣類だったとしても、あなたは並んでそれを買う。何であれ手に入れておけば、あなたの欲しいものを持っている人と交換できるからだ。

 市場の裏をかこうとした人間は成功したためしがない。ローマ法王もイスラムの導師も需要と供給の法則を無視することはできないのだ。なのに政治家は無視しようとする。近い将来、彼らは食品の価格を統制するはずである。数千年間やってきて何の効果もなかったのに、政治家は相変わらず価格の統制をやめようとしない。数年前、フィリピン政府が米の価格に上限を設けたところ、米農家は生産をやめてしまった。米は一番安い食品だし、トウモロコシと小麦も値上がりしたので、フィリピン人はますます米を食べ続けた。そして、生産が減って消費が増えるという予想どおりの結果を招き、米不足に陥ってしまったのである。だが米を作っても利益は出ない。この政策はあっという間に中止となった。
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冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート ~市場の英知で時代を読み解く~
ジム・ロジャーズ 著  神田由布子 訳



【著者】JIM ROGERS(ジム ロジャーズ)
クォンタム・ファンドの共同設立者。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論の教授を一時期務め、またテレビやラジオのコメンテイターとして世界中で活躍していた。2007年、『21世紀はアジアの世紀だ』との信念から一家でシンガポールに移住。著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行』、『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』、『ジム・ロジャーズが語る商品の時代』『人生と投資で成功するために娘に贈る13の言葉』、『ジム・ロジャーズ中国の時代』等がある。

【訳者】神田由布子(かんだ ゆうこ)
東京外国語大学卒。訳書に『U2ダイアリー終わりなき旅の記録』『カルト・ストリートウェア』(ブルース・インターアクションズ)等。
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