ビジネス
2013年11月6日
伝説の投資家が語る
混迷する市場の見極め方
『冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート』より
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 38年後の1932年、今度はピッツバーグのローマカトリック司祭ジェームズ・レンショー・コックスがペンシルヴェニアの失業者2万5000人を率い──こちらは「コックスズ・アーミー(Cox's Army)」として知られている──ワシントンまでデモ行進した。同じように公共事業によって雇用を創出すべく議会にかけ合うためで、当時、首都ワシントンDCで起こったデモとしては過去最大規模のものとなった。コックスはその年、失業者党(Jobless Party)初の大統領候補として大統領選に出馬したが、選挙の2カ月前に手を引き、フランクリン・D・ルーズベルトの支持に回ったのだった。

 逮捕の8日後、連邦議会議事録に記録されたジェイコブ・コクシーの1894年の演説には、ある上院議員の主張が名を伏せて引用されている。「25年間、金持ちはどんどん金持ちになり、貧乏人はどんどん貧乏になっていった。生存競争は激化する一方で、今世紀の終わりには中流階級は無くなっているだろう」

 どこかで聞いたおぼえはないだろうか? 「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」という最近のムーブメントが唱えたスローガンの出所もまた同じなのである。時代は変われど、こういった抗議は絶えることがない。

 ところで私はこの手の抗議運動の理屈には反対の立場を取っている。国民の1%が国家の富の大半を握っている、というのが彼らの主張だが、アメリカ国民の50%は連邦所得税をまったく支払っていない、というのがそれに対する私の回答だ。税金を払っている50%の人間を攻撃しても問題解決にはならないのではないだろうか。少なくとも一部の人間は働き、貯蓄し、投資し、税金を払い、雇用を創出している。
「家を持たない人間に他人の家を破壊させてはいけない」と言ったのはエイブラハム・リンカーンだ。「そのかわり彼に勤勉に労働させ、自分で家を建てさせるのだ。そして彼の家が暴力から守られるようにしてやるのである」

 大金持ちをけなす活動家には単純明快な数字をお教えしよう。最近ある証券会社がまとめた資料によると、大金持ちが作ったアメリカの株式会社42社が全世界で雇っている人間の数は総勢400万人以上にのぼるそうである。

 1960年代半ば、イギリスのハロルド・ウィルソン内閣は半導体産業の強化策を講じていた。これからはコンピューターや半導体の時代だ──そんなムードが世の中に満ちていたときである。しかし、ハロルド内閣はその計画を打ち切った。ある大臣の説明によれば、「半導体産業を推進すれば裕福になる人たちが出てくるが、大金持ちを生むのが我々の政策ではない」ということであった。当然ながら10年後、イギリス経済は破綻した。

 どんな国にも会社にも家庭にも個人にも過去の失敗に学ぶべきときが訪れるものだ。景気の後退はアメリカ経済に特有の風土病みたいなものである。4年から6年ごとにアメリカの景気は低迷する。今も景気後退の真最中だ。しかし政府は過去のミスを振り返ることなく、誤った不況対策を講じている。この次何が起こるのか、次でなければその次には何が起こるのか? アメリカは有り金をはたいてしまった。次に景気が後退したときにはさらに深刻な事態になっているだろう。負債の額があまりにも大きすぎるのだから。街角で叫び懇願する人びとの数はもっと増えていることだろう。そのとき、彼らの申し立てに対処できるような資金力はもはやアメリカには残っていない。

(了)
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冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート ~市場の英知で時代を読み解く~
ジム・ロジャーズ 著  神田由布子 訳



【著者】JIM ROGERS(ジム ロジャーズ)
クォンタム・ファンドの共同設立者。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論の教授を一時期務め、またテレビやラジオのコメンテイターとして世界中で活躍していた。2007年、『21世紀はアジアの世紀だ』との信念から一家でシンガポールに移住。著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行』、『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』、『ジム・ロジャーズが語る商品の時代』『人生と投資で成功するために娘に贈る13の言葉』、『ジム・ロジャーズ中国の時代』等がある。

【訳者】神田由布子(かんだ ゆうこ)
東京外国語大学卒。訳書に『U2ダイアリー終わりなき旅の記録』『カルト・ストリートウェア』(ブルース・インターアクションズ)等。
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