ビジネス
2013年11月6日
伝説の投資家が語る
混迷する市場の見極め方
『冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート』より
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 1980年代末にドイツで小麦の価格が上がったとき、「邪悪な投機家」を抑え込もうとした政治家は商品取引所での小麦取引を禁じる法案を可決した。その結果、小麦の値段は青天井となった。結局3年後、この点は評価できるのだが、政治家は誤りを悟って法律を廃止するに至った。1950年代のアメリカでも同じようなことが起こり、議会はタマネギに関する同様の法律を成立させた。だが、その法律は廃止されず、アメリカでは今でもタマネギだけが先物取引所で取引できない。この法案が可決になったとたんタマネギの価格は2倍に跳ね上がった。ここ10年はどんな食品よりも値上がりの幅が大きく、あまりの高値にインドが価格統制をしいたほどだ。

 ソ連にものが無かったのは作る人間がいなかったからであり、作る人間がいなかったのは値段が安すぎたからである。バイクでロシアを旅していたとき、現地の子供はパンでサッカーをしていた。パンの値段がわざと低く設定されていたので、(もしも買えるなら)サッカーボールを1個買うよりパンを何度も買う方が安上がりだったのだ。だから子供たちは街角でパンを蹴りまくっていたのである。パンを発酵させて作る清涼飲料クヴァスはソ連で一番ありふれた飲み物だった。パンは格安だったが、つまりそれはほかに何も買えないということであった。フィリピン人もドイツ人も価格統制が失敗すると素早く悟った。ソビエトは国全体が瓦解して初めて悟ったのである。

 国際エネルギー機関によれば、世界の石油の備蓄は年6%のペースで減っているそうである。しかもそれは油田が新たに見つかると仮定した数字らしい。つまり、新たに油田が見つからず、水圧破砕のような採取方法もうまくいかなければ、16年後にはいくらお金を払おうと石油は手に入らなくなるということなのだ。さいわいなことに、水圧破砕法は少なくとも短期的には成功を収めていて供給量は増えている。深刻な供給不足になれば商品は上げ相場に入り、価格はさらに高くなっていくはずである。

 そして訪れるのが社会不安だ。

 銅が値上がりしても、すぐに悟る人はそう多くない。だが小麦や砂糖の値段が上がれば誰もがすぐに気づき、すぐに不満を感じる。そしてそれが社会不安に発展していく場合が多いのだ。チュニジア、エジプト、リビア、イエメン、シリア等はほんの始まりにすぎない。世界中で食品の価格が上がれば人びとの不満はさらにつのり、つぶれる政府、崩壊する国家が増えていくはずだ。


冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート ~市場の英知で時代を読み解く~
ジム・ロジャーズ 著  神田由布子 訳



【著者】JIM ROGERS(ジム ロジャーズ)
クォンタム・ファンドの共同設立者。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論の教授を一時期務め、またテレビやラジオのコメンテイターとして世界中で活躍していた。2007年、『21世紀はアジアの世紀だ』との信念から一家でシンガポールに移住。著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行』、『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』、『ジム・ロジャーズが語る商品の時代』『人生と投資で成功するために娘に贈る13の言葉』、『ジム・ロジャーズ中国の時代』等がある。

【訳者】神田由布子(かんだ ゆうこ)
東京外国語大学卒。訳書に『U2ダイアリー終わりなき旅の記録』『カルト・ストリートウェア』(ブルース・インターアクションズ)等。
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