スキルアップ
2014年2月18日
なぜ人は「いまだけ」「ここだけ」に弱いのか
[連載] 「説得」に関わる人間の心理法則【3】
『論理的に説得する技術』より
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論理的は説得には欠かせない人間の心理法則を紹介する本連載。最終回となる今回は、人を説得する心理的テクニックをいくつかまとめて紹介します。論理的な説得について詳しく知りたい方は『論理的に説得する技術』(サイエンス・アイ新書)を参照いただけると幸いです。


ツァイガルニク効果-人は話を途中で止められると内容を覚えていやすい


中途半端なところで話が終わると、聞き手は関心を持続させやすい ※クリックすると拡大

「あのね」と話しかけられて「なに?」と聞いたところ、話しかけたほうが、たいした話ではなかったことに気づいて「まあいいや」という─こんなシーンは誰もが経験していることでしょう。このように、話を聞く態勢に入ったのに中断されるとものすごく気になります。「気になるから話してよ」といっても「たいした話じゃないから」と話してくれないと、いっそう気になってしまいます。

 連続もののテレビ番組なども、ストーリーが盛り上がり、クライマックスに達したところでかならず時間がきて「つづく」となると、物足りない残念な気持ちに襲われます。いい場面で中途半端に終わると、心に引っかかって、どうしても気になり、次の週もついチャンネルを合わせてしまいがちです。このように、私たちは、一連の流れを最後まで知りたがる性質があり、中断されると気になってその内容をずっと覚えているのです。

 記憶の実験では、完成直前のところで中断された内容は、完成した内容よりもよく記憶されていることが実証されており、これをツァイガルニク効果といいます。

 これをビジネスに応用する場面もいろいろ考えられます。

 顧客を訪問する仕事では、商品の説明をもう少し知りたいと思うようなところで中断し、「くわしいご説明はまたの機会ということにいたしまして、本日は簡単なご挨拶にとどめさせていただきます」とすると、数日後、なんだか気になって仕方がないということが起こるのも稀ではありません。

 また、住宅販売など、顧客に何度も足を運んでもらうケースでは、顧客からの難しい質問を「この次いらっしゃるまでにしっかりお調べしておきます。宿題にさせてください」という具合に対応しておくと、自然と気になって再来するきっかけになるかもしれません。こうして気持ちを引きつけておくことも、説得のプロセスの第一歩になります。

限定効果─人は「いまだけ」「これだけ」「ここだけ」に弱い


 相手にとっての価値を高める方法の1つに、限定性を与えるという方法があります。

 新聞の折り込み広告やテレビの通信販売でも、限定性をアピールする手口は、毎日のように目や耳に入ってきます。デパートの催事場では、「まぼろしの洋菓子が、3日間だけ200個限定で売られる」と広告され、3日間とも開店後10分で売り切れてしまう始末です。

 期間限定、数量限定、地域限定など、いまだけ、これだけ、ここだけ、あなただけと、巷には限定があふれかえっています。それほどまでに、私たちにはつい限定につられてしまうという性質があります。

 限定には、文字どおりの意味に加え、言外の意味も含まれます。「先着50名様かぎり」という文句には、その商品が50個しかないという意味に加え、「これは50人以上の人が殺到するほど誰もがほしがる価値のある商品です。51番目になったら手に入らないので、早くしないとなくなって後悔しますよ」といったメッセージが込められています。

 いまの日本では物や情報があふれかえっています。シャンプー1つ買おうとしても、種類が多すぎて選ぶのに悩んでしまいます。みな、なにがよいのかという絶対的な判断ができません。

 そこで、市場価値が高いもの、つまり人が殺到するようなものを求めます。人がほしがるものは、きっとよいものに違いない─そんな心理が根底にあります。自分は価値観をしっかりもっていると自負する人でも、目の前を何人もの人が走り抜け、われ先にと競って列に並んでいたら、何だか並ばないと損な気がするのではないでしょうか?

 そんな心理を利用して、物にかぎらず、技術や情報、サービスを提供する会社でも、「いま契約しないと損をするかもしれない」と思わせる限定効果を設けて、説得の効果を上げているのです。






論理的に説得する技術
相手を意のままに操る極意
立花 薫 著 榎本博明 監修



【著者】立花 薫(たちばな かおる)
医療・福祉業界勤務を経て、大学・研究所で心理学調査研究に携わる。現在、MP人間科学研究所研究員。著書に『「ゆるく生きたい」若者たち』(廣済堂新書)、『論理的に説得する技術』(サイエンス・アイ新書)がある。

【監修】榎本 博明(えのもとひろあき)
1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを歴任。現在、MP人間科学研究所代表。心理学博士。おもな著書に、『<私>の心理学的探求』(有斐閣)、『「自己」の心理学』(サイエンス社)、『<ほんとうの自分>のつくり方』(講談社現代新書)、『「上から目線」の構造』『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『ビックリするほどよくわかる記憶のふしぎ』(サイエンス・アイ新書)などがある。
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