ビジネス
2014年5月29日
「移民政策」は労働人口減少の特効薬になるのか
[連載]
日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか【3】
文・山田順
多様性こそが、私たちの社会を発展させる
世界にはアメリカのように移民で成り立っている国家もあれば、日本のようにほぼ単一の民族だけで成り立っている国家もある。どちらもあっていいじゃないかという意見がある。
たしかに、そのとおりである。しかし、今後を考えると、単一の民族と単一の文化で成り立つ国は、間違いなく衰亡していくだろう。世界が閉じられていた時代なら、こうした二つの種類の国家間に大きな差はつかなかった。
しかし、グローバル時代のいまは違う。日本人だけで固まっていると、アメリカやシンガポールのように、世界中から優秀な人材を集めた国には必ず負ける。これに韓国が加わったら、日本はどうするのだろうか?
もちろん、国家は勝ち負けするためにあるのではない。しかし、国際間の競争に負ければ、私たちは必然的に貧しくなる。それで、いいと言うなら、別に移民政策を推進する意味はない。みんなで手を取り合って貧しくなればいいだけだからだ。
アベノミクスでは「グローバル人材」「多様性」ということが盛んに言われている。この「多様性」は、移民を受け入れないかぎり実現できないと思う。東京が、世界のいろいろな国からやって来た人々で溢れ、日本の若者たちと世界の若者たちが居酒屋で杯を酌み交わしている。銀座や原宿を歩けば、たくさんの国際カップルがデートしながら歩いている。クラブに行けば、外国人はDJだけでなく、フロアにも多種多様な若者たちが踊っている。
学校にも会社にも、たくさんの外国人がいて、定住外国人となると日本語を話す。日本人も英語のバイリンガルになっていて、世界のあらゆる話題が会話に上る。このようなトーキョーのほうがはるかに楽しいし、活気がある。
日本も中国も、韓国も、じつは衰退する
先進国の人口動態は、今後、軒並み減少か横ばいである。ところが、先進国のなかで唯一の例外がある。
アメリカだ。アメリカの現在3億1000万人の人口は、今後も増え続けるとされ、2100年には4億6000万人に達するというのだ。となると、人口増の国の経済は成長を続けるという法則から見て、アメリカ経済は今後も順調に成長を続けていくことになる。
ついこの間まで、アメリカ衰退論、アメリカ経済崩壊論がさかんに言われたが、この国連の人口予測から見ると、そうした事態は起こらないことになる。
また、「今後は米中二極時代になる」「米中はやがて逆転する」とも言われた。しかし、これも、中国人口が2030年をもってピークアウトするならば、そんな世界はやって来ないことになる。
やって来るのは、20世紀を支配したアメリカが、21世紀も支配し続ける時代が続くということだ。人口数と増加を見れば、インドを含むアジアやアフリカの発展が考えられるが、1人当たりの経済規模が小さいことを考えれば、やはりアメリカが絶対有利だ。
では、日本はどうだろうか?
すでに人口から見れば衰退期に入った経済は、今後も縮小を続けるとしか言いようがない。よほど大きな幸運に恵まれるか、圧倒的なイノベーションが起こらないかぎり、日本経済は衰退し続けるだろう。すでに中国経済は衰退期入りしたとの見方も出ている。国連の人口予測より早く、人口減が起こる可能性もある。中国は長年「1人っ子政策」を続けてきたので、その結果として労働力人口(15~64歳)の増加率が、2015年を境に落ち込んでいく(中国社会科学院の予測)。つまり、2015年ごろから人口オーナス期入りし、その後は一気に高齢化社会が進んでいく。ただ、それでも全体人口は増え続けていき、2030年にピークを迎えるということだ。
じつは、中国も韓国もじきに日本と同じような高齢社会になり、高齢化は一気に進んでいく。つまり現在、中・韓は対日包囲網を強め、日本の国際的地位を貶めようとしているが、自分たちもまた国力を落としていこうとしている。
これを外側から見ると、東アジアの斜陽3国が、もう半世紀以上前に終わった過去をめぐって争っていることになる。非常にバカバカしい、誰も関わりたくない争いだ。
日本が再び経済成長するには
このように見てくれば、「老人国家」となった日本が全力で取り組まなければならないことは、はっきりしている。それは、日本人の数をこれ以上減らさないこと。この1点に尽きるはず。
「日本を取り戻す」ために、アベノミクスが始まった。その目的は、ひと言で言えば日本経済を復活させ、日本を再び経済成長ができるような国にすることだ。そうなれば、落ち続ける日本の国際的なプレゼンスも再び上がるだろう。
しかし、日本人の数が毎年30万人ほど減り続けていく現状を放置して、それができるだろうか? 肝心な経済成長の担い手となる日本人が減っていくのに、それができるとはどうしても考えづらい。
では、この問題の解決策は、あるのだろうか? じつはあるにはある。しかし、そのためには大きな「痛み」が伴う。だから、すべての政党が、問題を先送りしている。
解決策を言うと、(1)移民を大量に受け入れること、(2)若い世代にどんどん子供をつくってもらう。この2つしかない。
しかし、(1)は、この国の国民意識、閉鎖性から言って非常に難しい。東京オリンピックや国土強靭化で建設労働者が足りなくなり、「それでは外国人労働者」を受け入れようとなった。しかし、これは用がなくなればお払い箱にするような、日本の勝手な理屈に基づく政策だから、日本人が増えることにはならない。
また(2)も、世代間格差が開き、若年層がどんどん貧しくなっていることを考えると、出産補助金、育児手当の増額、託児所の整備ぐらいでは、とても解消できない。
私に言わせれば、中国人富裕層を移民として受け入れ、日本人にしてしまうぐらい大胆なことをやらなければ、問題解消は無理だろう。
とはいえ、いまの国民感情から言ってこれは不可能に近い。とすれば、せめて、国のトップぐらいは思い切って若返らせるべきだろう。
現在の安倍首相は以前の戦後の首相たちと比べて若いといっても、もう59歳である。オバマ大統領は47歳で大統領になり、いま52歳である。ケネディ大統領にいたっては史上最年少の43歳でアメリカ大統領になった。わが国で言えば、伊藤博文も44歳で首相に就任している。若い指導者の出現は、その国の未来を明るくし、海外の人々、投資家にも大きな期待感を抱かせる。
ところが戦後の日本の政治では「50歳、60歳は鼻たれ小僧」としか思われてこなかった。これでは日本は変わりようがない。せめて、60歳以上の人間は立候補できないようにし、70歳以上の高齢者からは選挙権を取り上げるぐらいの思い切った措置が必要ではないか。
日本と同じように高齢化が進むイタリアでは、この2月になんとイタリア史上最年少39歳というレンツィ首相が誕生した。そして、閣僚の平均年齢は47.8歳と大幅に若返り、しかも女性が8人も入閣した。
彼は選挙で選ばれた首相ではないが、現在77歳という高齢のベルルスコーニ元首相の時代にイタリア経済が停滞し続けたことを思えば、イタリア人ははるかにマシな選択をしたと言えるだろう。
(第3回・了)
【著者】山田順(やまだ じゅん)
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。