ビジネス
2014年6月10日
日本のエアコンとウォシュレットがアジアに奇跡を起こす!
[連載]
日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか【4】
文・山田順
日本は、長引く経済の低迷によって、世界での存在感を失ってきたが、そこにつけ込むように始まった中・韓の反日キャンペーン。いったい、私たちはどうすればいいのだろうか? グレンデールの慰安婦像、ロスのリトルトーキョーの崩壊などの現場を歩いたジャーナリスト・山田順の著書『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』から、世界市場での日本製品・日本ブランドの失墜の原因と打開策を探る大好評連載も今回が最終回!
新興アジアではエアコンの効いた職場で、進んで残業をする人間が続出
これまでの連載で日本の存在感低下をつらつら述べてきたが、もちろんまだまだ私たち日本人が世界に胸を張って誇るべきものを手にしていることも忘れてはならない。
半導体やテレビなどは失っても、これがなければ世界が困るという家電製品をまだ日本は持っている。
その代表例として、私はエアコンとウォシュレットを挙げたい。
21世紀はアジアの世紀だと言われている。中国やインド、そしてASEANに属する新興アジア諸国は、今日まで目覚ましい経済発展を遂げてきた。
では、なぜ、アジアがここまで発展したのだろうか? たとえば、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムなどの過去10年間の名目GDPの伸び率は日本をはるかに上回っている。このような「アジアの奇跡」はなぜ起こったのだろうか?
エコノミストなら、「いずれの国も人口オーナス期にあり、賃金が低かったことで、世界からの投資を呼び込むことができた。安価な労働力を求めてグローバル企業が進出し、生産拠点を設け、そこで行われる生産と雇用の創出をとおして内需を押し上げることに成功した」などと答えるだろう。
しかし、そこには肝心な点が抜けている。それは、新興アジア諸国が亜熱帯か熱帯に属し、一年中暑いことだ。これまで経済発展を遂げた先進国は、ほとんどが温帯にあった。
とすれば、新興アジアは例外、希有な例となる。賃金が安かろうと、暑くて働けばすぐ汗だくになるようなところで、高度経済成長など望めないはずではないのか?
というわけで、亜熱帯、熱帯アジアの経済発展の最大の理由は、日本のエアコンの普及ということになる。昔は、暑いところの人々はみな怠け者と思われていた。一日中、だらだらと過ごし、働く意欲もないので、そんなところに工場を建てても生産効率は上がらないと思われていた。しかし、日本のエアコンが、それが偏見だと証明した。新興アジアの人間も、快適な職場環境さえあれば、先進国の人間と同じように仕事ができると、日本のエアコンが証明したのである。
エアコンが最初にやって来たのは、もちろん、工場や職場だ。いまだに家庭では高くて買えない。そこで、工場に行けば涼しいと労働者が殺到した。なにしろ、家にいるより快適なので、仕事ははかどる。もっと長居したいため、進んで残業をする人間も出た。こうしてグローバル企業はエアコンを使うことで、安価な労働力を手に入れたのである。
なぜ、インド映画は異常に長いのか?
現在、アジア各国ではエアコンが急速に普及している。しかし家庭では、日本、香港、シンガポールを除いて、まだほとんど普及していない。インドの普及率はわずか6・4%、インドネシアは7・0%、ベトナムは5・6%、タイでも14・0%(2010年、IMF)だ。そのため、とくにインド人は、エアコンがあるところならどこにでも殺到する。
インド映画は、上映時間が異常に長い。途中で登場人物がストーリーと関係なく踊り出したり、主役がいきなり歌を歌ったりするので、「主人公と美女が急に踊り出す変わったB級映画」と思われている。ともかく長くて、上映時間は3時間以上がザラだ。
だから、インドの映画館で映画を見ると、途中で突然上映が止まるのでびっくりする。インド映画にはトイレ休憩があるのだ。そして映画評論家は、インド映画が長い理由を「それはインドの伝統で、インド人がミュージカル的な娯楽を好むから」と説明する。
しかし、本当の理由はまったく違うということを、私はあるとき、インド生活が長い日本企業の駐在員から聞いた。
「インドでは映画館が涼む場所なんです。家にエアコンがないから、映画館に行く。だから、映画は長くないといけないんですよ。たっぷり涼んで、昼寝もできますからね」
つまり、登場人物にワケもなく踊らせて無理矢理時間を長くする、それが本当の理由というのだ。私はこの説に思わず納得したが、真偽を確かめてはいない。
エアコンばかりではない。暑い国ではよく冷える冷蔵庫も必要だ。さらに、よく汗をよくので、簡単に洗濯ができる洗濯機も重要な必需品となる。
日本が高度成長を始めたとき、「三種の神器」とされた家電製品があった。1950年代後半、「三種の神器」とされたのは、テレビ(当時は白黒)、洗濯機、冷蔵庫である。
その後、1960年代半ばになると、これが「3C」になり、カー(クルマ)、カラーテレビ、クーラーが「三種の神器」になった。
その後もいろいろな「三点セット」が登場したが、アジアの国ではまだまだ、日本の初期の「三種の神器」が欠かせない。
図表「アジア各国の世帯当たりの家電普及率」は、アジア各国の世帯当たりの家電普及率だが、これを見れば、まだまだ日本の家電が必要なことがわかると思う。
【著者】山田順(やまだ じゅん)
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。