スキルアップ
2014年6月9日
なぜ人はゲームにハマるのか【後編】フロー理論
[連載]
なぜ人はゲームにハマるのか【2】
文・渡辺 修司/中村 彰憲
映画の脚本に見られるフロー理論
フロー理論は、無から生み出されたものではなく、現実世界のあらゆる事象をうまく整理し、理論体系化したことによって生まれたと言っていいでしょう。そのため、多くのゲームデザイナーはフロー理論の存在を知ることなく、独自の感覚でフロー理論に適うゲームを制作し、ヒットさせてきました。同じような現象はゲームに限らず、受動的なメディアである映画の脚本にも見られます。ここでは例として『ランボーII 怒りの脱出』を取り上げて分析してみましょう。
ランボーは元グリーンベレーの隊員でゲリラ戦の達人です。シリーズ二作目の本作では、CIA高官のマードックから、「ベトナムの捕虜収容所に潜入し、未だに捕えられているとされる米国兵の証拠を見つけ出す」というミッションを与えられます。
ここで注目するのは、劇中を通して「パワーアップ」していくランボーの姿です。捕虜収容所に潜入したランボーは米国兵捕虜との接触に成功し、捕虜を連れて収容所を脱出します。しかし、ヘリコプターによる脱出が成功しそうになりながら、捕虜が存在する事実を明らかにしたくないマードックの裏切りにあい、あと一歩のところでベトナム兵に捕らえられてしまいます。
その後、身ぐるみをはがされて、文字通り無防備の状態で拷問を受け、米基地に「何も異常はない」と伝えるように強いられている状態から、怒濤のアクションシーンがスタートします。この後のストーリーは、ランボーと敵側の攻撃の応酬で進んでいきます。ランボーが敵側を攻撃すると、敵側がスケールアップして応酬。それに対してランボーがさらにスケールアップして応酬という、シーソーゲームでストーリーが展開します。
ランボー:仲間のエージェントが待機していることを確認すると、マードックに対して「必ず戻ってお前を倒す」と告げ、拷問していた兵を手にしていたマイクでノックアウト。監禁されていた小屋から脱出し、エージェントから提供された銃を用いて、ベトナム兵を蹴散らす。
敵側:ランボーを待ち伏せし、エージェントを倒す。
ランボー:怒りに燃えたランボーは、待ち伏せしていた兵を銃で殲滅する。
敵側:ソ連軍の精鋭部隊が加わり、さらに強力な布陣でランボーを追撃する。
ランボー:サバイバルナイフとコンパウンドボウを駆使したゲリラ戦法で敵兵を撃退する。
敵側:一個小隊と軍用車でランボーを向かい打ちにする。
ランボー:爆弾を装着したコンパウンドボウで兵士と軍用車を村ごと爆破する。
敵側:軍用ヘリコプターでランボーを追撃する。
ランボー:滝へ逃げ込んで身を隠し、ヘリコプターが索敵のために水面に近づいたところで、そのヘリコプターを奪取する。そして収容所を殲滅し、捕虜を救出する。
敵側:最新鋭の軍用ヘリコプターで追撃する。
ランボー:圧倒的な火力の違いを見せつけられながらも、敵側の軍用ヘリコプターを撃破し、基地に帰還する。
このように、ランボーが対峙する課題は徐々に大きくなっていきます。これは、観客がランボーに感情移入することを容易にさせるために用いられる、演出手段のひとつです。あらためて振り返ったときには荒唐無稽とも感じられる展開ですが、それでも主人公に立ちはだかる障害の連続に、観客は思わず身を乗り出して感情移入してしまうのです。
【著者】渡辺 修司(わたなべ しゅうじ)
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職
【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職
【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。