カルチャー
2014年6月24日
あなたの腸内細菌は母親から受け継いだもの!
[連載]
『腸をダマせば身体はよくなる』より【3】
辨野義己
最大勢力「日和見菌」を優勢にするのがカギ
腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌がいることは知っていても、最大の勢力が日和見菌であることを知っている人は少ないかもしれません。快便の人の腸内細菌の割合だと、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%くらいなのです。培養が困難なため、その性質がわかっていない未知の細菌といえども、日和見菌は腸内細菌のなかで最大の勢力なのです。
日和見菌の多くは選挙の浮動票みたいな菌で、常に優勢なほうにつく性質があります。つまり、善玉菌が優勢になると善玉菌につき、腸内を発酵に導くのです。逆に、悪玉菌が優位になると悪玉菌につき、腸内を腐敗させます。風向き次第で、いい働きもすれば、悪い働きもするのです。
日和見菌でもっとも有名なのは大腸菌です。なかでも新聞や雑誌、テレビなどで時々目にする、О-157(腸管出血性大腸菌)の恐ろしさを知っている人は多いでしょう。ただ、О-157のように病原性のある大腸菌は少なく、ほとんどの大腸菌は非病原性です。善玉菌が優勢なときはじっとしているのですが、悪玉菌が優勢になると腐敗に加勢するのが特徴です。
大腸菌のように有名ではありませんが、日和見菌のなかで最大の勢力を誇るのはバクテロイデスで、腸内細菌の40%以上も占めています。
大腸菌はよく知られている日和見菌ですが、勢力からするとかなり小さいといえます。たとえば、ウンチ1グラム中、ビフィズス菌は100億~1000億個もいるのに、非病原性の大腸菌は1000万~1億個くらいしかいません。
日和見菌は腸内細菌のなかで最大の勢力ですが、腸内細菌で性質がよくわかっていない未知の菌がまだ70%もいるの? という見方をする人もいるでしょう。
それでも、1990年代後半から導入された細菌の16SrRNA遺伝子を用いた遺伝子解析方法によって、培養が困難だった菌種が正確に同定できるようになったのです。そのため、腸内細菌の研究が大きく進歩し、腸内細菌がつくりだす物質が、健康や病気、若さや寿命をも左右することがわかったのです。さらに研究が進めば、日和見菌の性質が次々と解明されていくかもしれません。
なお、大腸を発生源とする病気を防ぐには、日和見菌が悪玉菌につくのを阻止し、腐敗が起こりにくい腸内環境にする必要があります。そのためには、まずは善玉菌が優勢になるよう、動物性脂肪が少なく食物繊維が多い食事を摂ったり、適度な運動をしたり、ストレスを解消したりするなどの生活を心がけるといいでしょう。
母と子は腸内細菌まで似ている!
体格のよさが要求されるプロスポーツの世界では、才能や素質だけでなく「母親の体型を見て、将来の有望株を探す」といったことがよくいわれています。たしかに母と子で顔だけでなく体格まで似ていることがよくあります。とくに体格の場合は、同じ食生活をしている家族なので、似ていても不思議ではありません。
実は母と子が似ているのは、顔や体格だけではありません。腸内細菌も似ているのです。腸内細菌研究者の間では、「腸内細菌は母から子への贈り物」といわれているくらいです。つまり、赤ちゃんの腸内細菌のバランスは、母親から受け継いだものなのです。ところが、赤ちゃんは母親の胎内にいるときは無菌状態です。
では、どのようにして、赤ちゃんは母親の腸内細菌を受け継ぐのでしょうか?
自然分娩で生まれてくる赤ちゃんは産道を通ります。このとき、産道に付着していた腸内細菌に感染するのです。さらに生まれる瞬間は、肛門の近くから出てきますし、分娩のときに母親が脱糞することもありますので、そこでも感染するのです。また、母親から腸の粘膜も遺伝するので、同じような腸内細菌が定着しやすい、とも考えられています。
母親から受け継ぐ腸内細菌は、ビフィズス菌などの善玉菌だけではありません。悪玉菌や日和見菌も受け継ぐことになるのです。つまり、母親の腸内細菌のバランスがよければ、赤ちゃんの腸内細菌のバランスもよくなる可能性が高いのです。このため、食育は妊娠したときから始めたほうがいいのです。
フィンランドの研究所は、母親と生後1~3ヶ月の赤ちゃん90組の腸内細菌を調べたところ、75%の母と子が共通のビフィズス菌を持っていた、という報告をしています。
このようなことを書くと、「母親と同じ肥満体型なので、あきらめるしかない」と思ってしまう人もいるでしょう。
ところが、母親から受け継いだ腸内細菌は、食生活によって大きく変えることができます。つまり、動物性脂肪が少なく食物繊維が多い食事を摂って腸内細菌のバランスを保っていれば、母親と同じ肥満体型であっても腸をダマすことができ、肥満から抜け出すことができるのです。
【著者】辨野 義己(べんの よしみ)
1948年大阪府生まれ。独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長。 農学博士。DNA解析により腸内細菌を多数発見。腸内細菌と病気との関係を広く調べ、ビフィズス菌・乳酸菌の健康効果を広く訴えている。「うんち博士」としても、テレビ・雑誌等マスコミに登場。ヤクルト、協同乳業、ビオフェルミン、フジッコ、森永乳業、東亜薬品工業など7社出資で、理化学研究所内に辨野義己特別研究室を開設。著書に『大便通』(幻冬舎)、『見た目の若さは腸年齢で決まる』(PHP)、『腸をダマせば身体はよくなる』(SB新書)などがある。
1948年大阪府生まれ。独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長。 農学博士。DNA解析により腸内細菌を多数発見。腸内細菌と病気との関係を広く調べ、ビフィズス菌・乳酸菌の健康効果を広く訴えている。「うんち博士」としても、テレビ・雑誌等マスコミに登場。ヤクルト、協同乳業、ビオフェルミン、フジッコ、森永乳業、東亜薬品工業など7社出資で、理化学研究所内に辨野義己特別研究室を開設。著書に『大便通』(幻冬舎)、『見た目の若さは腸年齢で決まる』(PHP)、『腸をダマせば身体はよくなる』(SB新書)などがある。