ビジネス
2014年6月3日
国税調査官に学ぶ、一瞬で決算書を読み解く方法
[連載] 一瞬で決算書を読む方法【1】
文・大村大次郎
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税務署員は3分程度で1社を読みこなす!


 が、脱税や課税漏れというのは、そう簡単に見つかるものではない。企業側としても、脱税や課税漏れは、税務署に発覚しないように、いろんな工夫をしているのである。それを限られた情報の中から、見つけ出さなくてはならないのだ。

 そして、脱税や課税漏れを見つけるための第一歩というのが、「本当に儲かっている企業を見つけ出すこと」である。脱税や課税漏れをしている企業というのは、儲かっている企業である。儲かっているから、儲かった金を税金に持っていかれないように確保しておきたい、そういう心理で脱税はなされるのである。

 もちろん、儲かっている企業がすべて脱税をしているわけではない。しかし、儲かっていない企業が、脱税をすることはほとんどないのだから、とにかく儲かっている企業を見つけなくてはならないのである。

 国税調査官の人数は限られており、すべての納税者を調査することは不可能である。企業の数というのは、現在日本で600万社以上あると言われる。国税庁の職員は、5万人しかおらず、その中で、企業調査の仕事にあたっているのは、1万人に満たない。つまり、1人あたり1000社近くの企業を相手にしなければならない。

 だから、決算書や申告書を見て、儲かっている企業をあらかじめ絞り込み、税務調査を行なうのだ。しかも社会には、膨大な数の企業が存在するので、あまり時間をかけずに、その作業を行わなければならない。

 国税調査官は、決算書や申告書を3~5分程度で読み解き「この会社は本当に儲かっている」「この会社は儲かっていない」という判断をし、税務調査の対象者を選定するのである。

国税調査官は高度な会計知識は持っていない!


 ところが、この国税調査官は、実はそれほど高度な会計知識を持っているわけではない。もちろん、ある程度は、会計知識を持っているが、よくて簿記2級程度である。簿記の3級しか持っていない国税調査官も大勢いるのだ。簿記3級というのは、商業高校の生徒ならば、普通に持っているもので、普通の大学生であれば1、2か月勉強すれば取れる程度のものである。

 国税調査官の中で、税理士試験や公認会計士の試験に合格できるようなレベルの人はほとんどいないのである。つまり、あまり会計の知識がないにも関わらず、わずか数分で決算書を読み解き、本当に儲かっている会社を見つけ出すのだ。

 では、国税調査官は、どうやって儲かっている企業を見つけ出しているのか?

 答えは、極限までポイントを絞り込むのである。あるポイントだけを見るのだ。そうすれば、数分で決算書の概要を掴むことができるのだ。

 そのポイントとは何か?

 次回は、それを紹介したい。

(第1回・了)





一瞬で決算書を読む方法
税務署員だけのヒミツの速解術
大村大次郎 著



【著者】大村 大次郎(おおむら おおじろう)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』『税務署員だけのヒミツの節税術』(以上、中公新書ラクレ)、『税務署が嫌がる「税金0円」の裏ワザ』(双葉新書)、『無税生活』(ベスト新書)、『決算書の9割は嘘である』(幻冬舎新書)、『税金の抜け穴』(角川oneテーマ21)など多数。最新著書は『一瞬で決算書を読む方法』(SB新書)
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