ビジネス
2014年6月10日
日本のエアコンとウォシュレットがアジアに奇跡を起こす!
[連載] 日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか【4】
文・山田順
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ウォシュレットでないときのがっかり感たるや......


 このように、日本の家電の力はすごいのだが、今後、ここに加えたいのがウォシュレットだ。これは、いまや世界中の人々がもっとも欲しがる家電製品となっている。

 もともと日本人には「おしりを洗う」という習慣はなかった。しかし、ウォシュレットのおかげで、「洗わないと気持ちが悪い」というほどまでになった。私の場合、どこに行ってもトイレがウォシュレットでないとがっかりする。

 日本では多くのトイレがウォシュレットだから、このがっかり感はものすごく大きい。

 たとえば海外のホテルで、トイレがウォシュレットでないと、客室のテレビが韓国電機メーカーだったときの何倍もがっかりする。

 中国にしても新興アジア各国にしても、一部の都市部を除いてトイレのひどさは筆舌に尽くし難い。トイレのひどさに用を足すのを我慢し、ドア付きで水洗トイレのあるところを探しまわったことが何回もある。

 ウォシュレットの日本での出荷台数は、2013年の時点で4000万台を超えている。内閣府消費動向調査によれば、ウォシュレットを含む温水洗浄便座全体の家庭での普及率は8割に達している。

 ところが、海外、とくに新興アジアではウォシュレットはほとんど普及していない。もし、新興アジア地域の家庭のトイレのほとんどがウォシュレットになれば、新興アジア経済はいま以上に大発展を遂げるだろう。

 現在、ウォシュレットにいちばん感動しているのが、中国人だ。中国では家を建てると、人を呼んで盛大に祝う習慣がある。このとき、「ウチのトイレはウォシュレットだから、ぜひ来て試してほしい」というのが、最近の決まり文句になっているという。

インドにはテレビや冷蔵庫はあってもトイレがない!?


 ここで再びインドの話になるが、インドというのはすごいところで、家庭にテレビや冷蔵庫はあってもトイレがない。首都ニューデリーのスラムに住む人々は、毎朝、近所を走る鉄道の線路脇で用を足すのが習慣になっている。田舎に行けば、ほとんどの人々が外で用を足している。だから、女性が一人で外に出ることが多く、強姦事件が多発する。

 世界保健機関(WHO)によると、インドでは推定で6億2500万人が屋内トイレを利用できずにいるという。インド政府の国勢調査によると、インド人の53.2%は携帯電話を持っているが、その一方で、トイレ付きの家に住んでいる人は46.9%にすぎない。

 こうしたトイレ事情は、新興アジア諸国でもそう変わらない。インドほどひどくないが、トイレはあっても水洗トイレは都市部を除いてほとんどない。なぜなら、下水道が普及していないからだ。

 水洗トイレとは、日本の場合、家庭から下水道の本管に流れ、その本管は終末処理場に行くというシステムが確立されている。しかし、こうした下水道は、新興アジア諸国ではほとんど見られない。

 下水道普及率は、タイ9.6%、インド15.0%、フィリピン31.2%、インドネシア3.0%、ラオス19.2%、ベトナム18.0%、カンボジア11.0%(Global WaterIntelligence, Global Water Market 2011 より)と惨憺たる状況だ。

 下水道を整備し、家庭用のトイレをウォシュレットに替える。これだけで、新興アジアの未来はさらに開けるし、日本企業のビジネスは大きく発展するだろう。

 このように、日本の家電の力は世界を変える。人々の生活を変えてしまう。だから、パナソニックやソニーが、テレビやケータイで韓国のサムスンやLGに敗れたことは、本当に残念だった。そしていま、冷蔵庫や洗濯機まで韓国勢や中国勢に敗れようとしている。

 しかし、エアコンとウォシュレットだけは、どんなに中・韓が頑張っても、日本のメーカーには勝てないだろう。

 日本のエアコンの性能は群を抜いている。とくにダイキンのインバーターエアコンは、世界最高のエアコンと言っていい。インバーター(周波数変換装置)で、ファンを動かすモーターの回転数を細かく制御でき、温度調節は自在だし、温度設定による自動作動・停止もできる。しかも静かだ。

 中国では、エアコン以上に必要な家電がある。日本の空気清浄機である。なにしろ、PM2.5は粒子が微細なために屋内にまで容赦なく侵入してくるので、高機能な日本製の空気清浄機でないと用をなさない。

 もはや人類の居住地域でなくなった北京の中関村(北京の秋葉原)で売れているのはダイキン、シャープ、パナソニックの空気清浄機で、中国製品は中国人ですら見向きもしない。ただし、日本製の空気清浄機は性能がよすぎて、感知センサーのランプが付きっぱなしになってしまうという。それくらい、北京の空気は汚染がひどい。

 さて、再度インドの話になるが、インドではサムスンとLGの韓国2社が、早くから家庭用エアコンで3万円前後の格安製品を投入し、エアコン市場のシェアの半分を獲得していた。しかし、ここ2、3年で、ダイキンやパナソニックがシェアを伸ばし、韓国勢2社のシェアを奪いつつある。市場が成熟してくれば、最終的に高機能の日本の家電が勝つのである。

(了)





日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか
山田順 著



【著者】山田順(やまだ じゅん)
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社 ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に、『出版大崩壊』、『資産フライト』、『脱ニッポン富国論「人材フライト」が日本を救う』(いずれも文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『新聞出版 絶望未来』(東洋経済新報社)、翻訳書に『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)など。近著に、『人口が減り、教育レベルが落ち、仕事がなくなる日本』(PHP 研究所)、『税務署が隠したい増税の正体』(文春新書)、『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(SB新書)がある。
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