スキルアップ
2014年6月20日
戦略的な意思決定法「ゲーム理論」ってなんだ?
[連載] 『マンガでわかるゲーム理論』より【1】
文・ポーポー・ポロダクション
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経済学の分野で成熟してきた「ゲーム理論」。最近は経済を離れ様々なジャンルや場所でその名前を聞くようになりました。ゲーム理論を活用するとどんなことがわかるのか? さらに何に活用できるのか? 『マンガでわかる ゲーム理論』のポーポー・ポロダクションが解説します。


ゲーム理論とはなんだ?


 「ゲーム理論」と聞くと、ゲームを動かしている仕組みか、モンハンなどのゲームの必勝法と思われるかもしれませんが、ちょっと違います。簡単に言ってしまえば「利害対立をもつ相手がいる場合、競争相手の行動を考え、自分の最適な行動を合理的に決めるもの」と言えるでしょう。

 自分がもっとも得する戦略を考えるのには、自分のことだけ考えてもダメなのです。自分と同じように「得をしたい」と考える相手がいて、相手が何を考えて、どう行動してくるかを考えた上で、自分が1番得する最適な方法を決める必要があります。ゲーム理論はそうした戦略を分析して決定するのに役立つ理論です。

 ゲーム理論は経済の分野で成熟してきたこともあり、商品の価格設定など企業間の戦略などに使われてきました。ところが最近では経済だけでなく、企業の組織編成、物流の最適化、従業員との労働条件交渉など経営の分野、さらには生物学から政治の世界、軍事戦略などでも応用されています。TPPなどはまさに国と国をプレイヤーにしたゲーム理論による交渉が進められています。

ゲーム理論を使うと


 ひとつ例題を出します。こんなシチュエーションを考えてみてください。

 あなたは中世のA国を守る王です。自然に囲まれ水や食料も豊富にあります。あるとき豊かな資源を狙って隣国が攻め込んできました。 無益な戦いはしたくないあなたは、兵士と国民を城の中に招き入れろう城しました。冷静に戦局を分析したところ、敵軍の兵力は多いが、こちらには敵軍より優れた武器と防具がある。水や食料も充分にある。こちらが死ぬ気で抵抗すれば敵軍はその勢いに飲まれて撤退するかもしれない。とことん戦い抜くと、強い脅しを敵に見せたいが、戦い慣れをしていない自国の兵士の士気は低い。食料が充分なうちに戦うことが懸命か、それとも降伏か? このまま篭城を続けるか? さてあなたはどうしますか?

 駆け引き、ゲーム、交渉など対人的な戦略では選択肢は多いほうがいいと言われます。選択できる戦略が多いほど、相手の状況に応じて自分が有利な戦略を選べるからです。しかし必ずそうなるとは限りません。選択肢が多くなった結果、自分が不利になることもあるのです。たとえば特に相手に効果的な「脅し」をかけたいときには、自ら選択肢を減らすことで、脅しに信憑性を持たせることができ、結果的に利益を増やすことをゲーム理論は教えてくれます。

『マンガでわかるゲーム理論』より ※クリックすると拡大

 そうです。例題の答え、効果的な戦略は備蓄食料を「捨てる」ことです。捨てるところを見た兵士たちは、戦いに短期間で勝利しなくては死ぬことを覚悟します。食料を失い選択肢は限られました。そして最後まで戦うしかないという強い脅しを敵軍に見せることができるのです。

 信長の家臣、柴田勝家も選択肢を捨てる戦略を試みました。1570年、六角義賢の軍勢によって勝家の長光寺城は囲まれました。水を外から城へ引いていることを知った六角は、なんと水源を止めさせたのです。水源を止めることで無駄な戦いをせずに柴田軍の戦意を喪失させられると思ったのでしょう。ところが勝家は戦意を喪失するどころか、皆の前で溜めておいた水の瓶を割るという行動にでたのです。水がなくなったことで選択肢が狭くなりました。戦いに勝たなければ全滅するという状況を作ったのです。そして逆に士気が上がった柴田軍は僅かな兵でありながらも、城外に出て見事に六角軍を打ち取ったと言われています。

(第1回・了)





マンガでわかるゲーム理論
なぜダメな上司は仕事をサボるのか?デートは相手に合わせるべきか否か?
ポーポー・ポロダクション 著



【著者】ポーポー・ポロダクション
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画や各種制作物を手がけている。色彩心理と認知心理を専門とし、心理学を活用したデザイン制作や色彩心理セミナーは定評がある。著書に『マンガでわかる色のおもしろ心理学』『マンガでわかる色のおもしろ心理学2』『マンガでわかる心理学』『マンガでわかる人間関係の心理学』『マンガでわかる恋愛心理学』『デザインを科学する』(サイエンス・アイ新書)、『人間関係に活かす! 使うための心理学』『自分を磨くための心理学』(PHP研究所)、『色彩と心理』のおもしろ雑学(大和書房)などがある。
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