スキルアップ
2014年7月9日
なぜ上司は仕事をサボるのか?
──ゲーム理論【3】
──ゲーム理論【3】
[連載]
『マンガでわかるゲーム理論』より【3】
文・ポーポー・ポロダクション
経済学の分野で成熟してきた「ゲーム理論」。最近は経済を離れ様々なジャンルや場所でその名前を聞くようになりました。ゲーム理論を活用するとどんなことがわかるのか? さらに何に活用できるのか? 『マンガでわかる ゲーム理論』のポーポー・ポロダクションが今回は身近な会社の例で解説します。
働かない上司──社会的ジレンマ/フリーライダーの問題
高い給料をもらっていながら働かない上司、仕事をしているフリをしてゲームをしている同僚、プレゼンがうまくいったときだけ急にリーダーの雰囲気を出す先輩。
会社にはこうした人たちが暗躍しています。
こうした人たちはフリーライダー(ただ乗り)と呼ばれ近年増加傾向にあります。フリーライダーは会社だけでなく、税金を払わないで公共サービスを受ける人、列に横入りする人なども同じです。他人に費用や行動をさせておいて、自分は何もせずにその恩恵に預かろうという人です。
職場にこうした人たちがいると大きな弊害を生みます。なぜかこのフリーライダーは新しいライダーを生み、次第にどんどん増殖してしまうのです。なせ会社はこうしたライダーを増やしてしまうのでしょうか? ゲーム理論で考えてみましょう。
フリーライダーの「上司」と「他の社員」でゲームの利得表を作ります。上司は「仕事する」、他の社員は「仕事する」の戦略では社員2、上司3(1.5倍)の利得を得ます。
互いに「しない」は利益を生まずに0です。
上司は「仕事する」、他の社員は「仕事しない」では上司は多くの社員の分まで働かないといけませんから、多くの労力を使い利得-5を得ます。他の社員は上司ががんばって働いてくれるので楽できて3の利得を得ます。
上司は「しない」で他の社員は「仕事する」と上司は楽できるので利得5(大勢が働くので利得は大きい)、社員は上司の分まで働くので利得-1(働かないのはひとりなので損害は少なくてすむ)です。
利得表からわかるように、上司「しない」は支配戦略(相手がどんな戦略であっても、自分が「しない」ことが自分にとって最適な戦略)のため上司は仕事をしなくなってしまうのです。上司が仕事をしないのは単に無能だからということではありません。
「働かない上司」を「働く上司」にする方法
上司にとって「しない」は支配戦略でしたが他の社員にとっては「しない」は支配戦略ではありません。お互いに「しない」を選択すると会社が成り立たなくなってしまいます。上司が仕事をしなければ自分たちがしなくていけませんし、上司が仕事をしてくれるならしないほうが利得は高くなります。
また上司と社員の利得の違いを見てください。
「仕事する」「仕事しない」では、上司と社員で大きな利得の差があります。上司は多数の中のひとりなので、働かない場合の利得は高く、働く場合の利得はとても低くなります(5と-5)。
しかし他の社員の差は(3と1)です。つまり、どちらかが働かなくてはならないなら、社員が働くと効率がいい構造です。加えて上司は権力を持っています。より強くより多くのメリットを得られる上司が働かないのはこうした構造があるからなのです。
しかし上司が部下より人一倍働くことはめずらしくありません。
この利得表は能力のない上司のものであり、能力のある上司の利得表は違います。部下をうまく使うことができ、「仕事する」「仕事する」の利得が「しない」よりも上回り、社員がしなくても「しない」よりも利得を増やすことができ、「仕事する」が逆に支配戦略になっているのです。
こうした上司と仕事をすれば、社員も大きな利益がもたらされ「仕事する」ことが支配戦略になり得るのです。
フリーライダーを増殖させないためには、利得をしっかり得られる会社側の「インセンティブ」の存在が重要です。会社は能力が低い上司でも「しっかり働けば自分は得をする」という仕組みを作り、管理することが重要なのです。企業はよくムチで仕事をさせようとしますが、いやいやアメこそが重要だとゲーム理論は教えてくれます。
(第3回・了)
[連載]『マンガでわかるゲーム理論』より 記事一覧
[1]戦略的な意思決定法「ゲーム理論」ってなんだ?
[2]囚人のジレンマってなんだ?──ゲーム理論【2】
[3]なぜ上司は仕事をサボるのか?──ゲーム理論【3】
[1]戦略的な意思決定法「ゲーム理論」ってなんだ?
[2]囚人のジレンマってなんだ?──ゲーム理論【2】
[3]なぜ上司は仕事をサボるのか?──ゲーム理論【3】
【著者】ポーポー・ポロダクション
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画や各種制作物を手がけている。色彩心理と認知心理を専門とし、心理学を活用したデザイン制作や色彩心理セミナーは定評がある。著書に『マンガでわかる色のおもしろ心理学』『マンガでわかる色のおもしろ心理学2』『マンガでわかる心理学』『マンガでわかる人間関係の心理学』『マンガでわかる恋愛心理学』『デザインを科学する』(サイエンス・アイ新書)、『人間関係に活かす! 使うための心理学』『自分を磨くための心理学』(PHP研究所)、『色彩と心理』のおもしろ雑学(大和書房)などがある。
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画や各種制作物を手がけている。色彩心理と認知心理を専門とし、心理学を活用したデザイン制作や色彩心理セミナーは定評がある。著書に『マンガでわかる色のおもしろ心理学』『マンガでわかる色のおもしろ心理学2』『マンガでわかる心理学』『マンガでわかる人間関係の心理学』『マンガでわかる恋愛心理学』『デザインを科学する』(サイエンス・アイ新書)、『人間関係に活かす! 使うための心理学』『自分を磨くための心理学』(PHP研究所)、『色彩と心理』のおもしろ雑学(大和書房)などがある。