スキルアップ
2014年6月30日
囚人のジレンマってなんだ?
──ゲーム理論【2】
──ゲーム理論【2】
[連載]
『マンガでわかるゲーム理論』より【2】
文・ポーポー・ポロダクション
経済学の分野で成熟してきた「ゲーム理論」。最近は経済を離れ様々なジャンルや場所でその名前を聞くようになりました。ゲーム理論を活用するとどんなことがわかるのか? さらに何に活用できるのか? 『マンガでわかる ゲーム理論』のポーポー・ポロダクションが前回に引き続き解説します。
もっとも得する戦略にたどり着けない「囚人のジレンマ」
ゲーム理論上でよく知られたモデルに「囚人のジレンマ」というゲームがあります。
「囚人」というものの正確には逮捕されたふたりの容疑者の話しです。お互いが高い利得を得ようとした結果、仲間と協力して高い利得を得ることが出来ず、警察官の説得によって裏切りを選び、少ない利得を分け合うという残念で残酷なゲームモデルです。
ふたりの窃盗犯が警察に捕まりました。ところが確実な証拠がなく、ふたりが黙秘を続けているため、このままでは証拠不十分で起訴ができません。できて懲役1年の罪に問えるぐらいでしょう。そこで警察官は容疑者にある取引を持ちかけます。「お前が正直に事件の全貌を自白すれば微罪にしてやる。いや無理矢理仲間に入れられたことにして、無罪にしてやってもいい。だがな、相手が自白をすれば5年はぶち込んでやる。まあその結果、両方とも自白したら共に懲役3年だな」と言うのです。
もしあなたが捕まった泥棒Aだとして、この警察官の言う通り、自白するほうが得なのか、黙秘を続けるべきなのか、さてどちらを選びますか?
ゲームに参加するプレイヤーは容疑者AとBのふたり。戦略は「自白」するか「黙秘」するかのどちらかです。この例題を利得表という表にまとめてみます(表1)。
容疑者Aであるあなたはこう考えます。
「沈黙を続ければ懲役1年か。1年なら牢屋でも頑張れそうだ。だったら黙秘を続けるほうがいいだろう。いや、待てよ。Bの野郎はいつも根性なしで、人を裏切ることなどなんとも思ってねぇ。すぐに損得で人の付き合いを考えるヤツだ。ヤツは無罪に目がくらんですぐに自白するかもしれねぇ。いや絶対に自白する。俺が言わないと俺は5年も牢屋に入れられちまう。5年なんてまっぴらごめんだ。よし先に自白してやるぞ」
そうしてあなたは自白してしまいます。容疑者Bも結局あなたの行動を不安に感じて自ら自白してしまいます。そうして結局、ふたりは懲役3年になってしまうのでした。
囚人のジレンマの実例「ウォーターゲート事件」
『マンガでわかるゲーム理論』より
ワシントン連邦地方検事局のアール・J・シルバート主任検事補は、大統領の財政顧問ジョージ・G・リディと大統領の法律顧問ジョン・ディーンに協力を得るためにある取引を持ちかけていたと言われています。それは事件の背景にいる黒幕の存在を証言するかわりに罪を軽減するというものでした。当初リディもディーンも罪を認めようとせず誰も裏切ろうとしませんでした。そこでシルバート検事補は工作活動への関与が薄いとされるディーンを裏切らせるためにいくつかの策を講じたのです。
ディーンにリディと内密に話をしていると伝え、検事側の証人になったように見せかけ、さらにリディの弁護士にリディの様子をコメントするように罠をしかけました。そうして不安になったディーンは、近くリディが自白すると確信し、あせって先に自白したのです。
リディもディーンも黙秘を続けていたら証拠不十分で隠蔽が成功したかもしれません。しかし自分より相手が先に自白してしまうことを恐怖に感じたディーンは結果的にリディよりも先に「裏切り」の選択肢を選ぶことになったのです。
結局、この事件は多数の逮捕者を出し、ニクソン大統領は辞任に追い込まれました。
(第2回・了)
[連載]『マンガでわかるゲーム理論』より 記事一覧
[1]戦略的な意思決定法「ゲーム理論」ってなんだ?
[2]囚人のジレンマってなんだ?──ゲーム理論【2】
[3]なぜ上司は仕事をサボるのか?──ゲーム理論【3】
[1]戦略的な意思決定法「ゲーム理論」ってなんだ?
[2]囚人のジレンマってなんだ?──ゲーム理論【2】
[3]なぜ上司は仕事をサボるのか?──ゲーム理論【3】
【著者】ポーポー・ポロダクション
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画や各種制作物を手がけている。色彩心理と認知心理を専門とし、心理学を活用したデザイン制作や色彩心理セミナーは定評がある。著書に『マンガでわかる色のおもしろ心理学』『マンガでわかる色のおもしろ心理学2』『マンガでわかる心理学』『マンガでわかる人間関係の心理学』『マンガでわかる恋愛心理学』『デザインを科学する』(サイエンス・アイ新書)、『人間関係に活かす! 使うための心理学』『自分を磨くための心理学』(PHP研究所)、『色彩と心理』のおもしろ雑学(大和書房)などがある。
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画や各種制作物を手がけている。色彩心理と認知心理を専門とし、心理学を活用したデザイン制作や色彩心理セミナーは定評がある。著書に『マンガでわかる色のおもしろ心理学』『マンガでわかる色のおもしろ心理学2』『マンガでわかる心理学』『マンガでわかる人間関係の心理学』『マンガでわかる恋愛心理学』『デザインを科学する』(サイエンス・アイ新書)、『人間関係に活かす! 使うための心理学』『自分を磨くための心理学』(PHP研究所)、『色彩と心理』のおもしろ雑学(大和書房)などがある。