カルチャー
2014年9月11日
史上最低金利だからこそ気をつけたい「住宅ローンの罠」
[連載] 不動産を買うなら五輪の後にしなさい【3】
文・萩原 岳
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実質金利マイナスへの誘導は果たしてうまくいくのか


 「歴史的な低金利」とはあくまで名目金利での低金利に過ぎません。過去約10年間のデフレ下、すなわち物価上昇率がマイナスの日本経済では、実質金利がむしろ高くなっていた可能性すらあるのです。ですから、「これから金利が上がるので、低金利なうちに家を買おう」という発想も理解できるのですが、少し冷静になり、実質金利を計算してから行動に移した方がいいでしょう。

 金利水準からみたマイホームの買い時は、名目金利が低く、かつ物価上昇率が高い時期だと言えますが、名目金利と物価上昇率は相関関係にありますから、どちらか高くてどちらか低いといった状態は通常であれば考えにくいのです。しかし、それを実現させようとしているのが、黒田日銀総裁による異次元緩和です。黒田総裁は金融抑圧により金利を人為的に低く抑え込む一方、これまでのデフレ期待をインフレ期待へ変更させることで、実質金利をマイナスへと誘導しようとしています。その効果が現れたのか、日本の経済成長率が10年物国債利回りを上回りました。経済成長と物価上昇は深い関係にありますから、実質金利の今後の動向は注視していく必要があります。

 もし黒田日銀緩和がうまくいき、デフレを脱却し物価上昇率を2%にのせることができれば、以下のようなマイナスの実質金利が現出するかもしれません。もちろん実質金利がマイナスになるならば、それは住宅ローンを借りる側にとっては有利な状況です。ただし、経済の原則からみれば、なかなかこのような状態をつくり出すのは困難な面もあります。もちろん、実質金利がマイナスというような状態になって、国民に住宅ローンをどんどん組んでもらうことは、銀行だけでなく、国にとっても景気を支えてもらうという意味で願ったりかなったりでしょう。

・下記のような式は果たして成立するのか?
名目金利 1% - 物価上昇率 2% = 実質金利 -1%

限度額まで借りて住宅ローンを組むのも危険


 住宅金融支援機構によれば、2012年度の住宅ローン新規貸し出し額は約20兆円、貸し出し残高は約180兆円にものぼります。それだけ、住宅ローンが浸透していると言えますが、その一方で返済に困窮しマイホームを手放す世帯も毎年一定数発生します。「夢のマイホーム」取得に浮足立つ気持ちも理解できますが、住宅ローンは借金であるという意識が、もしくは、借金に対する覚悟が希薄な方が多いように見受けられます。借金である以上、金を貸して儲ける人がいて、あなたのマイホームには担保と保証人がつけられていることを忘れてはいけません。

 金余りの一方で貸出先の減少に悩む金融機関にとって、住宅ローンは比較的リスクの少ない商品です。返済原資は融資を受ける人のサラリーですから安定していますし、借金の目的がマイホーム購入と限定され、かつ、借金が不動産に変換されるだけですので、担保さえとれば貸倒れのリスクも少ないからです。万が一の場合には保証会社に債権を譲渡すればいいわけですし、保証を利用するのも、融資を受ける人に保証料を支払わせていますので、金融機関は安心して融資を出すことができます。

 かつては、マイホーム購入金額の7、8割までしか融資がおりないと言われていましたが、最近では9割どころか10割、はては諸費用なども含めて融資を出すこともあります。もちろん、リスクが少ないとはいえ、人を見て融資を決めていますが、金融機関は金を貸すことが仕事ですから、一度貸せると判断すれば、できるだけ多く借りてもらおうとします。限度額まで借りれば物件のグレードを1つ、2つ上げることも可能でしょう。しかし、「借りられる金額」と「返せる金額」は一致しません。住宅ローンは借金であることを意識し、返せる金額だけ借りないと、後で痛い目をみます。

 無理のない範囲で借金をするためには、頭金の用意が欠かせません。個人的には、2割はほしいところです。特に、新築マンションは購入した直後に1、2割値下がりする傾向にありますので、担保割れを防ぐためにもそれぐらいの頭金は用意しておきましょう。いざという時に選択肢の幅が広がります。「お金を貯めている時間がもったいない」という声もありますが、そもそも貯金ができないようなお金体質の家計でマイホームを買おうとすること自体が無謀だと言えます。20年、30年と続く長い返済期間の中では不測の事態に陥ることもあるでしょう。限られた収入の中で、家賃+αの予算を確保し続けることは、そういった場合への訓練にもなります。






不動産を買うなら五輪の後にしなさい
不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ
萩原 岳 著



萩原 岳(はぎわら がく)
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。
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