カルチャー
2015年4月17日
体内時計の乱れは、やがて認知症を招く
[連載] 病気を防ぐ「腸」の時間割【4】
文・藤田紘一郎
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1日は光を目に入れることから始めよう


 私が朝型生活を始めたのは、自分が糖尿病になったことがきっかけでした。朝に3分間の深呼吸タイムを持ち、朝食をきちんととるようになってから、糖尿病はすっかりよくなり、コレステロール値も中性脂肪値も正常を保っています。

 さて、「今日から生活を改善しよう」と思うとき、多くの人は夜の就寝時間を早めることから始めます。しかし、それは成功しにくい方法です。

 大事なのは起床時間です。毎朝同じ時間に起きることです。起床時間は、腸のリズムに生活スタイルを照らし合わせて決めるとよいでしょう。だいたい5~6時までに起きるのが理想です。

 起床時間を決めたら、その時間に、とにかく目に光を入れるようにします。私たちの体を構成するおよそ60兆個の細胞には、それぞれ時計遺伝子が組み込まれています。すべての時計遺伝子は、自ら属する器官の生体リズムを構築しつつ、互いに連動しながら働いています。

 その約60兆個の細胞にある時計遺伝子を統括しているのが、脳の視床下部の一部である視交叉上核です。視交叉上核は目の奥に位置し、両者は視神経で結ばれています。

 目に入った光はダイレクトに視交叉上核に伝わって体内時計をリセットし、その情報は自律神経とホルモンを通じて全身の時計遺伝子に届けられます。

 朝、布団から抜け出すのがつらいという人は、まず目に光を入れてください。ちょっと手を伸ばしてベッドサイドの照明や部屋の電気をつけ、脳が覚醒してくるまで、その光を見るだけでよいのです。

 さらによい方法は、思い切ってテレビをつけて、布団の中でもよいからテレビの画面を見てください。ニュースなどで仕事の関連の情報が流れると、「さあ、今日もがんばろう」という気になります。テレビなど電子機器の画面からは、強い光が発せられます。その強い光の中で画像が動くと、その刺激が脳を興奮させ、覚醒に導いてくれるのです。

 眠たくてもなんでも、決めた時間に目を開けて光を見ること。これが大事です。「今日から早起きをして外に出て、朝陽を浴びながら深呼吸をする」という健康法を始めるのは、簡単そうに思えながらも、なかなか億劫なものです。ですからまずは、布団の中で光を視交叉上核に伝えることから始めてみましょう。

 ところで、みなさんは朝、何を使って起きているでしょうか。目覚まし時計のけたたましく響く音でないと起きられない、という人もいると思います。

 私たち人類は、誕生以降、太陽の光とともに起きてきました。一方、睡眠中に脳に侵入する突然の音は、獣や敵が近づいてくる危険サインとして脳に刷り込まれています。つまり、大音量の音や不快な音を鳴らすことは、ストレスの大きい起き方なのです。

 自然な起床を目指すのならば、光目覚まし時計などを使ってみるのもよいと思います。また、音で起床時間を知る場合にも、やわらかな音や音楽などを使うのをおすすめします。音は朝が来たことを自分に気づかせる程度に使いましょう。
 (体内時計については、4月16日発売の『病気を防ぐ「腸」の時間割』(SB新書)で解説していますので、ぜひご一読ください)

(了)





病気を防ぐ「腸」の時間割
老化は夜つくられる
藤田紘一郎 著



藤田紘一郎(ふじたこういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授。昭和14年中国旧満州生まれ。三重県育ち。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学大学院にて寄生虫学を専攻。テキサス大学で研究後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授を経て、昭和62年より東京医科歯科大学教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日米医学協力会議のメンバーとして、マラリア、フィラリアなどの免疫研究の傍ら、「寄生虫体内のアレルゲンの発見」「ATLウイルスの伝染経路の発見」など多くの業績をあげる。日本寄生虫学会賞、講談社出版文化賞、日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞受賞。著書に『笑うカイチュウ』(講談社)、『清潔はビョーキだ』(朝日新聞社)、『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『人の命は腸が9割』(以上、ワニブックス)、『体がよみがえる「長寿食」』(三笠書房)など多数。
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