ビジネス
2015年4月27日
隆盛を誇る自動車産業が、過去何度も見聞きしてきた日本企業敗北のストーリーに陥る!?
[連載]
日本のものづくりはMRJでよみがえる!【3】
文・杉山勝彦
日本のオールスターが集結し、技術の粋がつまった国産旅客機、MRJ(三菱リージョナルジェット)。並みいる世界のライバルメーカーたちに対してMRJはどんな優位性をもっているのか? 日本の航空機産業は、果たして新たな成長産業として軌道にのれるのか? MRJをウォッチし、航空機産業を支えるメーカーの現場を丹念に見てきた杉山勝彦が執筆し、5月に刊行予定の『日本のものづくりはMRJでよみがえる!』から、日本のものづくり復活のヒントを見ていこう。
環境対応技術とデジタル化技術で後れをとっている!?
前回、筆者は、日本の自動車産業の隆盛は現在がピークで、今後の成長性については懐疑を抱くと指摘した。
本連載では、航空機産業からのものづくり復活の処方箋を述べているが、自動車産業は航空機などからの技術波及が大きく、何といっても60兆円市場という規模を誇る。日本のものづくりの屋台骨を支える産業なので、今回は自動車産業の将来について述べてみたい。
自動車産業で今後ポイントとなるのは、環境対応技術とデジタル化技術、さらにはボリュームゾーンをめぐる異業種企業やベンチャー企業の参入とソフトウェア開発だ。
たとえば現在、ヨーロッパでは低環境負荷の自動車として注目されているのは、クリーンディーゼル車だ。エンジン技術の進歩によって有害物質はほとんど出なくなっており、燃費も安い。日本でディーゼル車といえば、有害物質をまき散らす悪者のイメージが定着していることもあり、製品化で大幅な遅れをとってしまった。国内メーカーではマツダがクリーンディーゼル車に取り組んでいるが、世界的な市場で見れば欧米メーカーに大きく水をあけられている。
さらに、自動車においてもデジタル化、つまりカーエレクトロニクス化が進んでおり、製品技術が要求されるようになってきている。高速道路で一定速度を維持するクルーズコントロールもドライバーの習熟度に応じて柔軟な調整ができるなど、センサーとソフトウェアを組み合わせたデジタルデバイスとしての側面が強い。
「走るスマートフォン」が自動車業界に地殻変動をもたらす
電気自動車や燃料電池車といった次世代自動車では、その傾向に拍車がかかる。それを象徴するのが、テスラモーターズだ。同社の電気自動車は、モーターの加速性能や走行距離といった性能に優れるだけでなく、タッチスクリーンによるコントロールや自動運転などの機能を実現した「走るスマートフォン」ともいうべき製品だ。バッテリーとモーターさえあればどこの企業でも電気自動車は造れるようになる。
パソコンが短時間で誰にでも組み立てられるようになったのは、ソフトウェアを駆使したデジタル回路技術の進歩により、ハードウェア(装置)の負担が大幅に軽減され、ハンダによる接続の良し悪しなどに左右されることなく、部品と部品の接続が標準化されたコネクタで済むようになったからだ。
電気自動車や燃料電池車でも、電池モジュールや燃料タンクのデファクト化が進めば、これまで自動車の製造に縁がなかった異業種企業やベンチャー企業でも自動車部品、あるいは自動車の完成品にも気軽に参入してくるようになるのは間違いないだろう。ちょっと前まで夢にも思わなかったことが起きているのだ。
杉山勝彦(すぎやまかつひこ)
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。