ビジネス
2015年5月8日
日本企業がアップルの下請けで終わらず、システムメーカーとして大きな果実を得る方法
[連載]
日本のものづくりはMRJでよみがえる!【4】
文・杉山勝彦
日本のオールスターが集結し、技術の粋がつまった国産旅客機、MRJ(三菱リージョナルジェット)。並みいる世界のライバルメーカーたちに対してMRJはどんな優位性をもっているのか? 日本の航空機産業は、果たして新たな成長産業として軌道にのれるのか? MRJをウォッチし、航空機産業を支えるメーカーの現場を丹念に見てきた杉山勝彦が執筆し、5月に刊行予定の『日本のものづくりはMRJでよみがえる!』から、日本のものづくり復活のヒントを見ていこう。
インフラ輸出を2020年には30兆円に拡大することが目標だが...
日本の強みとなり得る分野として、高機能材料を安定して製造する量産能力、職人的なこだわりによる、高い精度の加工技術と品質管理能力などが挙げられる。
愚直に品質を向上させることは日本人の気質に合致しており、これを活かして高付加価値が狙える分野をめざすのは妥当な方向だろう。
いずれにせよ狙うべきは、グローバルな高付加価値市場ということになる。少子高齢化の進む日本市場だけでは、将来的な成長が見込めない。
グローバルな市場を狙うといっても、メーカーが単独で世界に飛び出して、受注を獲得するというのはさすがに無理がある。本書では、国際的な認証制度を活用することも1つの方法として提案している。
もう少し大きな視点で製造業のグローバル化を考えるならば、複数の企業が一丸となって大きなプロジェクトを作り上げることが必要になってくる。近年では政府もインフラ輸出に力を入れるようになってきた。ベトナムでの原子力発電所や高速道路、米国の超伝導リニア、インドの高速鉄道、スリランカのデジタル放送など、数々の大型案件について政府首脳がトップセールスを行うようになってきている。政府は、2013年6月に発表した日本再興戦略において、10兆円(2010年時点)のインフラ輸出を2020年には3倍の30兆円に拡大することを目標として挙げている。
「淡水化プラント」という成功例に学ぶ
インフラ輸出というキーワードがクローズアップされる前から、日本企業はプラント関連の輸出で強みを発揮してきた。製造技術の強さをプロジェクトとして結実させた成功例としては、中東における淡水化プラントがある。
淡水資源の極めて少ない中東では、海水を処理して淡水化することが人々の生活にとっても産業にとっても死活問題である。1960年代に最初の淡水化プラントが中東で稼働すると、瞬く間に中東全域でプラントの建設が進んでいった。かつて中東における淡水化技術の中心となっていたのは、多段フラッシュ法だ。これは海水をボイラーに取り込み、石油を燃やした熱で蒸発させて淡水を得るというもので、石油資源が豊富な中東では合理的な方法であった。
だが近年は、石油資源の先行きが不透明であること、環境保護意識が高まってきたこと、そして何よりも質の良い淡水が得られることから、「逆浸透膜」方式の淡水化プラントが主流になってきた。
逆浸透膜方式の原理はごくシンプルだ。通常、塩分濃度の高い液体と濃度の低い液体を半透膜で仕切ると、水は濃度の低い方から高い方へしみ出す。ところが、濃度の高い液体に高圧をかけると、水分子だけが濃度の高い方から低い方へと移動する。逆浸透膜方式でポイントとなる技術は、2つ。水分子だけを通す微細な孔の開いた膜と、高圧ポンプである。
1960年代に米国メーカーが中心になって逆浸透膜の開発を進めていたが、その後、米国メーカーの多くは撤退。米国から技術を導入した日本の繊維メーカーが、半導体製造用超純水処理膜の需要拡大と、高度な紡糸技術によって存在感を高めていった。現在、日東電工、東レ、東洋紡を合わせた日本メーカーのシェアは、逆浸透膜全体の5割を占め、とくに、日量5万立方メートル以上の大型プラントにおける日本メーカーのシェアは70%を超え独壇場になっている。
逆浸透膜方式の淡水化プラントでは、逆浸透圧(海水に加える圧力)の発生のほか、取水、配水のためにも高効率の高圧ポンプが必要だ。この分野では、酉島製作所がスペシャリストとして特に中東地域では高い評価を得ている。
プラント全体を見ると、小型プラントは栗田工業、オルガノ、大型プラントでは三菱重工業やササクラが強い。高圧ポンプを駆動させるための発電所を併設するケースも多く、三菱重工業のGTCC(ガスタービン・コンバインド発電)は発電効率の高い発電所として注目されている。
逆浸透膜方式の淡水化プラントが評価されたのは膜の高性能によるところが大きい。だが、高品質な逆浸透膜を材料として販売するのではなく、高圧ポンプなどの設備と組み合わせて、プラントとしてインテグレーションし、メンテナンスも含めた統合的なサービスとして提供したことで、大きなビジネスの成果を得ることができたわけである。
杉山勝彦(すぎやまかつひこ)
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。