ビジネス
2015年5月8日
日本企業がアップルの下請けで終わらず、システムメーカーとして大きな果実を得る方法
[連載] 日本のものづくりはMRJでよみがえる!【4】
文・杉山勝彦
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オーケストラにたとえるなら、航空機メーカーは指揮者


 MRJという国産ジェット旅客機を造ることの意義も、そこにある。

 ボーイング787を始め、世界の航空機産業における日本メーカーの存在感は大きくなってきているが、それだけではあくまで下請けに過ぎない。

 かつて、航空機の製造においては、ボーイングやエアバスといった航空機メーカー自身がボルトやリベットに至るまで全部品を直接に管理してきた。しかし、現在、航空機メーカーが手がけるのは、機体の設計と最終組立である。エンジンやアビオニクス、油圧システムといった主要なシステムについては、システムメーカーと呼ばれる大手インテグレーターを開発パートナーに迎えて開発が進められる形がとられている。

 この背景には、機体の大型化やシステムの複雑化を背景とする急速な技術進歩に対して、航空機メーカーの手が回らなくなったこと、逆にシステムメーカーが技術面のみならず資金面も含めて力をつけてきたこと、などがある。

 オーケストラにたとえるなら、航空機メーカーは指揮者だ。指揮者の仕事というのはコンサートで指揮棒を振るだけではない。曲をどのように解釈して、どんなメンバーにどう演奏してもらうのかを考え、パート単位や全体の演奏を調整していく。そうやって、コンサートをつくり上げていくのである。

 航空機メーカーの仕事とは、どんな機体をつくるのかを決め、それに必要な要素をどうやって調達するかを考え、最終的な組立まで持っていくインテグレーションである。インテグレーションするということは、個々の要素について自らが品質保証を行うということに他ならない。事故が起きた時、製造物責任を問われるのは航空機メーカーであり、だからこそどんなサプライヤーや技術を採用するのかについても決定する権利を握っている。製造工程で使う工作機械や細かな手法についても、何を使うかを決定するのは航空機メーカーである。

高付加価値の産業分野で、システムで勝負するために


 航空機関係者の悲願であったMRJは、まもなく世界の空を飛ぼうとしている。MRJに対するエアラインの評価は高く、受注も順調ではあるが、MRJ1機種で産業振興というには無理がある。確かに、航空機関連の部品メーカーは潤うだろうが、その需要はあくまでも限られている。

 MRJがもたらす本当の効果とは、プロジェクトを仕切る企業の元で、システムメーカーが育ち、グローバル市場で勝負できるようになることなのである。そうしたシステムメーカーが次々と登場してくれば、その裾野にまた多くの企業が育つことになる。あくまでMRJは、多くの企業が世界に飛び立つための、1枚の切符にすぎないことを理解しておくべきだろう。

 歴史的に見て、日本の製造業は非常に恵まれてきた。繊維などの軽工業から始まり、石油化学、鉄鋼、そして自動車、エレクトロニクスなどの産業が栄えている。各種材料や機械加工から精密機器開発まで、製造業のあらゆるレイヤーが揃っている国はほかにはあまり例を見ない。

 こうしたピラミッドを活かし、航空機以外でもシステムメーカーが生まれてくるかどうか――。ボリュームゾーンではなく、高付加価値の分野で勝負できるか。それが、日本のものづくり復活のカギとなるだろう。

 筆者が有望だと考えている分野としては、本書で取り上げている「炭素繊維」がある。  「CFRP」として航空機や自動車での採用が進んでいる炭素繊維だが、アプリケーションをうまく見つけることができれば、大きな市場が生まれるだろう。

 エレクトロニクスについても、家庭用ロボットのようにメカトロニクスと組み合わさった、高付加価値な分野には可能性がまだある。

 将来的には、水素にも期待したいところだ。水素社会というと燃料電池車が大きく取り上げられがちだが、ドイツが指向しているように、水素の製造から、プラントや交通機関、住宅での利用まで、サプライチェーンの構築こそが重要である。製造業のあらゆるレイヤーを活用できるという意味でも、日本には大きなアドバンテージがあるのだ。

(了)





日本のものづくりはMRJでよみがえる!
杉山勝彦 著



杉山勝彦(すぎやまかつひこ)
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。
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