カルチャー
2015年6月9日
【戦う名城】63年ぶりの国宝に!ゲリラ戦仕様の「松江城」
[連載]
戦う名城【2】
文・萩原さちこ
天守としては63年ぶりの国宝指定に
山陰地方で唯一現存する天守。下見板張りの黒壁は、白漆喰壁の優美さとはひと味違う、落ち着いた力強い印象だ
決め手となったのは、築城年を裏づける祈祷札の再発見だ。城の完成時に奉納されたとみられる祈祷札2枚には「慶長十六」とあり、戦前に確認されていたものの行方不明になっていた。松江市では築城400年にあたる2011年、懸賞金500万円をかけて調査を開始。翌2012年に二の丸にある松江神社で市職員が発見し、城の穴蔵でも札が打ちつけられた釘穴が見つかったことから、1611(慶長16)年の築城が裏づけられた。
また近年の研究により、堀尾吉晴が築城前に一時期居城とした月山富田城(島根県安来市)から天守の2階以下に部材を転用したこと、2階分に通し柱を複数配置することで構造を安定させたことなど、独自の工法も次々と明らかに。これらの希少性も国宝化の要因となった。
バランス美に長けた四重5階の天守
松江城天守は、全国に現存する12棟の天守のなかでもバランス美に長け、独特の存在感を放つ。天守の平面積は姫路城天守に次ぐ第2位。タワーのように縦長ではなく、どちらかというと横に長いどっしりとしたフォルムだ。天守の前に立ってもさほど大きく見えないが、内部に入るとその広さに驚くだろう。
下見板張りの黒壁は、姫路城天守の白漆喰壁(しろしっくいかべ)の優美さとはひと味違う、落ち着いた力強い印象。壁面には大きな入母屋破風(いりもやはふ)が配され、千鳥が羽を広げたように見えることから別名・千鳥城とも呼ばれる。
天守は、五重に見えるが四重5階。よく見ると、入母屋屋根が漆喰壁までしか延びておらず、1メートルほどのスペースがある。屋根ではなく出窓として扱われ、三重目に見える白壁の階は一重にカウントされない。
内部に向けられた狭間に注目
天守から付櫓に向けて切られた狭間。通常なら城外に向けて壁面に設置される狭間がこの場所にあるのは、標的が付櫓内部の敵だから。万が一、敵が付櫓内へ侵入した場合、次は天守から付櫓を攻撃できるしくみだ
実戦仕様を実感できるのが、天守の入口に付属した付櫓(つけやぐら)だ。現在、天守へ上がる際の玄関となり、靴箱が置かれている小さな建造物が付櫓。見学者用の入口としてうまく活用されているが、もちろんもてなしを意識して広いエントランスにしているわけではなく、敵が天守へすんなりと侵入できないよう、城兵が射撃するスペースとして設けられている。
天守に敵兵が近づいてきたなら、城兵は付櫓に陣取って狭間(さま)や石落としから射撃し、天守への侵入を阻止。攻撃スペースは半地下になるため、地階入口に敵が足を踏み入れても即座に斜め上から射撃できるようになっている。
付櫓の役割はこれだけではない。付櫓から天守に近づく敵への攻撃を第1段階とすると、真の威力を発揮するのが第2段階。必見は、天守と付櫓の連結部分に設置された鉄砲狭間だ。
狭間は城外の敵に向けて壁面に設置されるものであるから、天守と付櫓の間に設けられているのはいささか不思議に思うだろう。実は、この狭間の標的は付櫓内部の敵。なんと、万が一敵が付櫓内へ侵入した場合、次は天守から付櫓を攻撃できるようになっているのだ。
付櫓には鉄砲狭間つきの石落としが両側につけられ、一重目と二重目と合わせて77カ所も鉄砲狭間が設置されている。二重目にいたっては、屋根を張りださせて設ける徹底ぶりだ。
【著者】萩原さちこ
1976年、東京都生まれ。青山学院大学卒。小学2年生で城に魅せられる。制作会社や広告代理店勤務などを経て、現在はフリーの城郭ライター・編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座、ガイドのほか、「城フェス」実行委員長もこなす。おもな著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研パブリッシング)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『今日から歩ける 超入門 山城へGO!』(共著/学研パブリッシング)、『戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。公益財団法人日本城郭協会学術委員会学術委員。
公式サイト http://46meg.jp/
1976年、東京都生まれ。青山学院大学卒。小学2年生で城に魅せられる。制作会社や広告代理店勤務などを経て、現在はフリーの城郭ライター・編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座、ガイドのほか、「城フェス」実行委員長もこなす。おもな著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研パブリッシング)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『今日から歩ける 超入門 山城へGO!』(共著/学研パブリッシング)、『戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。公益財団法人日本城郭協会学術委員会学術委員。
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