カルチャー
2015年10月9日
認知症700万人時代!予防のカギは脳より「腸」だった
[連載] 認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい【1】
文・新谷弘実
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腸の若返りで認知症は予防できる


 腸内細菌、なかでも善玉菌が十分に働ける環境にしておくことは、健康の維持や改善に大変重要です。その効果は身体ばかりではなく、脳の細胞にも及びます。
 腸内で、脳の健康に必要な栄養素や神経伝達物質の素がつくられていることはご存じでしょうか?

 たとえば体内で合成できないビタミン群を腸内細菌はつくり出してくれます。その種類は、ビタミンB1、B2、B6、B12、K(脂溶性ビタミン)、パントテン酸、葉酸と豊富です。この中で、ビタミンB6とB12が脳の萎縮を遅らせるとの報告や、ビタミンB群と葉酸が中高年のうつ症状の改善に効くといった研究報告が海外から寄せられています。

 脳の萎縮は認知症の大きな要因となります。また老年性うつは認知症へ進行していくリスクがあるとされています。すなわち腸を健康な状態にしておくと、認知症の予防にもなるということがいえるのです。
 先進国の中で最も早く高齢化社会に突入した日本では、認知症への取り組みが緊急の課題となっています。

2025年、認知症患者700万人時代に突入


『認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい』(新谷弘実 著)

 現在、日本の認知症患者の数は462万人、65歳以上の高齢者の7人にひとりが認知症といわれています。それが2025年には、1.5倍の700万人にまで増えて、5人にひとりの方が認知症という時代になると予測されています。
 認知症にまでは至っていない予備軍の方も相当数にのぼり、若年性認知症の発症も増えてきています。

 いうまでもなく、認知症は脳が変性して起こる病気です。したことを覚えていない、自分のいる場所がわからなくなるなど記憶に大きな支障が出たり、怒りっぽくなる、意欲がなくなる、身体の機能がうまく動かせなくなる、しゃべれなくなるなど、行動や知能面にも障害が生じます。

 近年は世界的な問題にもなってきていることから、各国でさまざまな研究が進められている最中ですが、その原因や治療についてはいまだ確立に至っていません。
 その一方で、腸と脳との関係に焦点を当てた研究が進むにつれて、腸内細菌の出す物質が脳を活性化させ、認知機能の改善や向上にもよい影響が見られるといった報告が出始めています。

 腸内細菌に関する日本の第一人者、東京大学名誉教授の光岡知足氏の研究によれば、ヒトは高齢になるほど善玉菌が減って、悪玉菌優位の腸内環境になっていくそうです。
 年をとるほど悪玉菌優位になっていくのは、加齢によるひとつの自然現象ともいえるでしょう。でもそれによって腸が脳に必要な物質を十分届けられなくなっていることと、認知症の発症とは無縁ではないように感じます。

 腸内で脳に必要な栄養素がしっかりつくられることによって、脳の働きは活発になります。つまり、腸内細菌のバランスを整えて腸の働きを高めれば、 脳に送られる栄養や必要な物質が増えて脳の働きも活性化します。その結果、認知症の予防や進行を遅らせることにもつながっていくのではないか─―そのように思うのです。
 ですから認知症がイヤなら、「腸」を鍛えればいいのです。

 なお、今回の記事内容については、10月16日発売の拙著『認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい』(SB新書)でもふれています。あわせてご一読いただければ幸いです。

(了)





認知症がイヤなら「腸」を鍛えなさい
新谷弘実 著



新谷 弘実(しんや・ひろみ)
1935年福岡県出身。医学博士。ベス・イスラエル病院名誉外科部長。米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科元教授。1960年順天堂大学医学部卒業後、1963年に渡米。1968年に「新谷式」と呼ばれる大腸内視鏡の挿入技術を考案し、世界で初めて開腹手術をすることなく内視鏡による大腸ポリープ切除に成功。その技術によりガン発症リスクを大きく減少させ、医学界に大きく貢献する。日米で35万例以上の胃腸内視鏡検査と10万例以上のポリープ除去手術を行ったこの分野の世界的権威。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『胃腸は語る』(弘文堂)、監修に『免疫力が上がる!「腸」健康法』(三笠書房)など多数ある。
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