カルチャー
2015年10月29日
医者が処方で金儲けはウソ! 医薬分業でも薬が減らない事実
[連載] だから医者は薬を飲まない【1】
文・和田 秀樹
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薬や検査が減ると高齢の患者さんは元気になる


 医療費が年々増えて国の負担が大きくなってきた1990年代に、このまま医療費を膨らませるわけにはいかないということで、慢性疾患を抱えて長期入院をしている患者さん(通常は高齢者)を対象にした病院(療養病床と言いますが、当時は老人病院と呼ばれていました)について定額制が導入されました。

 それまでは長期入院の患者さんに対して病院側は、いろんな検査をしたり、点滴漬けにしたり、薬漬けにしたりして儲けを出していたのです。検査をすればするほど、薬を出せば出すほど儲かるからです。

 ところが定額制の導入によって、どんなに検査をしても、どんなに薬を使っても、医療費が定額になったのです。ですから、病院が定額以上の治療や検査を行っても、医療保険から治療費は支払われないわけです。

 一定額を超えて薬を出したり、検査をしたりすればするほど病院側の損になってしまうのであれば、病院もやっていけません。ですから、今度は治療と投薬を必要最小限に抑えるようになります。検査も薬もできるだけ減らせば、利益が増えるからです。

「そんな手抜きみたいな治療をしたら、患者さんの状態が悪くなるだろう」
 そう考える人もいると思います。特に高齢の患者さんの薬や検査を減らしたら危険ではないかと心配する人もいるでしょう。

 ところが皮肉なことに、検査も薬の投与も減ったことで、逆にお年寄りの患者さんが元気になってベッドから出て歩くようになったのです。

専門以外の科の薬が減らせない医者


 高齢の患者さんの例からもわかるように、やはり薬や検査が体に負担をかけているのでしょう。いずれにしても検査や薬が減ることで病人が元気になるのであれば、医療保険からカバーするお金も抑えられるわけですから、国としても喜ばしいことに違いありません。

 実際、厚生労働省はいま、外来に来る75歳以上のお年寄りの患者さんについても、定額制を導入する方針を固めています。外来の患者さんの1日の医療費を一定額にすれば、それ以上の検査も薬の投与もしなくなりますから、特に今後増えていくと予想される老人医療費の抑制につながると考えているのです。

 ところが、そんなに簡単に片が付く問題ではないのです。なぜなら、必要な医療まで減らしてしまう恐れもあるからです。また、薬を減らすとしたら、どれを減らしたらいいか判断が難しいという問題もあります。たとえ自分の専門分野であっても、3種類の薬を2種類に、あるいは1種類に減らすとしたら医者も悩むと思いますが、専門外の薬ならなおさらどれを減らせばいいかわからないのです。

 つまり、薬を減らせば患者さんが元気になることもありますが、必要な薬を飲まないことで病状が悪化することも十分考えられるのです。

 また、医者が出す薬の量についてひと言付け加えておくと、昔は開業医もたくさん薬を出していました。薬を出せば出すほど薬価差益によって医者の儲けになる時代があったのです。

 そこで厚生労働省は医療費をこれ以上増やさないようにしたいという考えから、薬剤費を抑えるために医薬分業にしました。医者の役割は処方箋を書くだけで、その処方箋に従って調剤薬局が薬を売るというシステムを導入したわけです。そうすれば、医者はあまり薬を出さなくなるだろうという考えです。

 ところがふたを開けてみると、薬剤費はほとんど減らなかったのです。これは、医者が自分の利益のために薬を出していたのではないということです。患者さんに必要な薬であれば、自分が儲かる・儲からないにかかわらず、ちゃんと飲んでもらわなくてはいけないということで、これまでと同じ分だけ処方箋を書いたわけです。






だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
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