カルチャー
2015年10月29日
医者が処方で金儲けはウソ! 医薬分業でも薬が減らない事実
[連載] だから医者は薬を飲まない【1】
文・和田 秀樹
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医者が薬を使いたくなる"キックバック"システム


 最近になって、日本うつ病学会が、「軽症のうつ病には薬を使うよりもカウンセリング的な治療のほうがいい」というようなことを言い出しました。また、日本老年医学会も、「老人に使わないほうがいい薬」のリストを発表したり、「老人にはなるべく薬を使わないほうがいい」ということを言い出したりするようになりました。

 各学会のこのような見解は、製薬協(日本製薬工業協会)との取り決め(自主規制)によって製薬会社からの接待が禁止になり、また、学会に所属する大学教授たちが製薬会社から研究費や研究助成費などの名目でもらった金額を公表しなければならなくなった途端に出てきたものなのです。

 もしかすると、製薬会社の接待が続き、研究助成費などを公表しなくてもいいという状態が続いていたら、学会はそんなことを言い出さなかったかもしれません。製薬会社が奢ってくれなくなった途端に薬の悪口を言うのは、逆にそれまでの癒着をほのめかしているような気がします。

 一時期、医者の薬漬けを批判する時代が長く続いたことがありました。そのときは開業医が大量に薬を売って薬価差益で儲けていると言われていました。一方、大学病院の医者は自分で薬を売るわけではないので、1円も得にならないのに患者さんに薬を出していると思われていたのです。

 ところが、実際には開業医が出す薬よりも大学病院の医者が出す薬のほうがはるかに多かったのです。しかも、大学病院の医者は薬を出しても1円も儲けにならないというのは事実ではなく、たくさん薬を使えば使うほどにおいしいエサがあったのです。

 そういうおいしいエサのなかにはもちろん接待もありました。たくさん薬を使うと、製薬会社のMR(エムアール=建前上は医療情報提供者ですが、実質的には営業担当で、私が内科医をやっていた頃はプロパーと呼ばれていました)から、「先生、ゴルフに行きましょう」「銀座のクラブに行きましょう」と誘われることもよくあったわけです。

 また、製薬会社から渡されるケースシートというアンケート用紙のようなものに副作用の有無を書くと、それだけでお金がもらえました。私自身もそのケースシートを書いたことがあるので、どういうシステムになっているかわかったのですが、薬を使ってみて副作用がなければ「なし」という欄に〇を付ければ、あとは4つくらいの項目にYES・NOに答えるだけで1万円とか2万円とかもらえるのです。

 ただし、副作用が実際に出た場合に「副作用があった」という欄に〇を付けると、次に裏面に詳細を書くようになっていて、それを書いていると1時間ぐらいかかってしまうのです(「副作用があった」と書くとお金をくれない製薬会社もありました)。

 ですから、面倒くさがりの医者だったら副作用はなかったということにして、「なし」に〇を付けることもあり得るわけです。あるいは、「異常値は出たが、本薬とは関係ないと思われる」という欄に〇を付ければそれで済むのです。

 そういう"うまい"やり方によって、副作用が出るパーセンテージが操作されてしまうので、新薬のデータに「副作用2%」などと書かれていても、たいていの医者はその数字を鵜呑みにはしないわけです。

 たくさん薬を使っても儲からないはずの大学病院の医者たちが、開業医よりも多くの薬を使っていたという事実の背景には、このような"お金"の絡んだ話があったのではないか──そんな気がしてなりません。

 なお、今回の記事内容については、11月16日発売の拙著『だから医者は薬を飲まない』(SB新書)でもふれています(ただいまAmazon等で予約受付中です)。あわせてご一読ください。

(了)





だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
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