カルチャー
2015年11月2日
患者に薬を出しても、医者が薬を飲みたがらないワケ
[連載]
だから医者は薬を飲まない【2】
文・和田 秀樹
薬を飲んでまで長生きしたい医者は少ない
医者が薬を飲まない理由が、もう1つあります。それは、薬を飲んで長生きすることを医者自身があまり望んでいないということです。この気持ちは、私にもよくわかります。
超高齢社会に入ると、どんな医者も老人を診る機会が多くなります。私のような老人医療に携わっている医者は特にそうですが、80歳を超え、90歳、100歳という高齢の患者さんに多く接すると、長生きをしたからといって、必ずしも幸せではないという厳しい現実が手に取るようにわかってくるのです。
好きなお酒やタバコをやめ、おいしい物を食べるのを我慢して、薬を飲みながらヨロヨロと長生きをする─―そうまでして長生きすることに、正直言って魅力を感じないという医者が多いと思います。だから、長生きするという目的のために薬を飲みたいとは思わないし、手術をしたいとも思わないし、入院したいとも思わないわけです。
しかし、私を含め、ほとんどの医者は患者さんには1秒でも長生きしてもらいたいと思っています。そのためには、どんな薬を処方すればいいのか、どんな治療をすればいいのかと、いろいろと考えるわけです。
薬への耐性を考えず、量を増やす医者は"やぶ医者"
「同じ薬を長く飲んでいると、体が慣れてしまって効かなくなるって本当ですか?」
たまに、こんな質問を受けることがあります。
それに対して私は、「薬によって違います」と答えています。
たしかに精神安定剤のように耐性が出やすい薬もありますが、血圧の薬などは常用しても効かなくなるということはあまりありません。このように耐性の有無は薬によって違うわけですが、それよりも問題なのは、薬が効かなくなったときの医者の対応です。
たとえば、精神科では睡眠薬を出すことがよくあるのですが、通常は長く飲んでいるうちに薬に対する耐性が出てきて、だんだんと効かなくなるのです。そうなったときに、
「1錠では効かなくなったので、2錠にしましょう」
と言って薬を増やそうとする医者は"やぶ医者"と言っていいでしょう。
こういうやり方だと、2錠で効かなくなれば3錠、3錠で効かなくなれば4錠...という具合に、どんどん増えていって体への負担もどんどん大きくなっていくわけです。
もちろん、人によって薬の適量が違いますから、最初は何錠飲めばその人にとって効果的なのかを見るために、「1錠飲んで効かなければ、2錠にしてみましょう」ということはあります。しかし、これはあくまでも薬を服用する初期段階の話であって、すでに常用している薬の量をどんどん増やしていくというやり方は、常識のある医者はしないのです。
では、長く飲んでいる薬が効かなくなったら、どうすればいいのでしょうか。
こういう場合は、他の薬に替えるのです。薬の種類を替えると、耐性ができるまではその薬は効果を発揮します。そして、長く使用していくうちに耐性が出てきたら、また違う薬に替えて、薬の量がいたずらに増えていかないように配慮するのです。
和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。