カルチャー
2016年2月19日
【プロが教える野球観戦術】野球の醍醐味は「見えないファインプレー」にあり
[連載]
プロ野球 見えないファインプレー論【1】
聞き手・SBCr Online編集部
今年もいよいよプロ野球オープン戦が始まる。華麗なプレーや記憶に残るプレー、記憶に残る数字だけが野球のすべてではない! 走塁や打撃、守備などの一見平凡そうなプレーにも勝因は潜んでいる――。野球解説者があまり語らない、こうした「見えないファインプレー」について、プロで長年二塁手として活躍し、現在は解説者・評論家およびWBSCプレミア12の守備・走塁コーチなどを務め、『プロ野球 見えないファインプレー論』(SB新書)を刊行した仁志敏久氏に、プロのプレーの奥深さを余すところなく語っていただいた。
一見平凡なプレーの裏にも高い技術がある
「派手なホームランや華麗な守備だけが野球ではない」と語る仁志氏(撮影:SBクリエイティブ)
2015年9月12日の埼玉西武ライオンズ対北海道日本ハムファイターズ戦では、日本ハム1点リードで迎えた延長11回裏、それまでノーヒットだった「おかわり君」こと西武の4番・中村剛也選手が逆転サヨナラ2ランを放ち、劇的な形で勝利をモノにしました。
また、同じく7月9日の阪神タイガース対中日ドラゴンズ戦では、中日の森野将彦選手が打ったセンターへの大飛球を、阪神の大和選手が一直線に追ってジャンピングキャッチ。実況アナウンサーは「スーパープレーです!」と絶賛しました。
それらのプレーは、試合結果を左右するビッグプレーであり、チームを救い、ファンを沸かせます。
しかし、野球の試合というのは、派手なホームランや華麗なジャンピングキャッチだけではなく、目に見えない水面下の地道な努力の積み重ねで成立していることのほうが多いと言えます。
例えば、内野手の正面に飛んだゴロは、プロであれば当たり前にできると思われがちなプレーですが、そのゴロを捕った選手が「あらかじめ正面で捕れるように考えて、動いていた」としたらどうでしょうか。つまり、平凡に見えるプレーの裏にもプロだからこそ可能な、プロにしかできない高い技術の蓄積が隠されていることもあるのです。
テレビや球場で観戦しているだけではなかなか見えてこない小さなファインプレーが、それぞれの球場のそれぞれの試合の中に、実はいくつも存在しています。
この"見えないファインプレー"の存在を知ることで、これからみなさんの野球観戦は大きく変わり、結果的に今より何倍も野球を楽しむことができるようになるかもしれません。
水面下にある「準備」の大切さ
プロ野球を観戦している方々にはなかなか見えてこない"プレー"の一つに、試合に挑む前の選手たちの準備があります。
準備とは、簡単に言えば「自分が考えるベストの状態にできるだけコンディションを整えておくこと」です。言い換えれば、選手が試合前にできることは準備だけ。プロの選手として、その準備にどれだけ意味のあることができるかが重要となってきます。そして、その中身は主に「フィジカル」(肉体)と「メンタル」(思考)の二つに大別することができます。
まず「フィジカル」に関する準備ですが、日頃の基本的なウェイトトレーニングが必要なのは言うまでもありませんが、野球に必要のない筋肉をつけて、見た目だけ体を大きくしても意味がありません。むしろ逆効果です。キャンプ中ならともかく、シーズン中に極端に重たいウェイトを持ち上げるということをプロはあまりやりません。
明確な目的を設定し、必要な筋肉を必要なだけつけるための計画的なトレーニングを、先を見越して継続して行うことが重要です。当然ながら、投手と野手では方法が違ってきますし、同じ野手でも人によって鍛えるべき部位は異なります。
そのあたりのノウハウは、ベテランになるほど個々で自分の方法を確立していますし、なかには自費でパーソナルコーチを雇っているケースも、最近では珍しくありません。
ただ、若手選手の場合は、費用などの面でなかなかそうもいきませんので、球団に所属するトレーニング・コーチとカリキュラムを相談し、それに基づいてトレーニング方法を設計していくケースが多くなります。
私の場合は、試合前の練習が始まる前に、いわば「準備のための準備」として、数種類のマシンを交互に組み合わせるサーキットトレーニングを毎日行っていました。今はこうしたウェイトトレーニングはほとんどの選手が行っており、そこに手をつけない選手はどんどんおいていかれる傾向にあります。
かつては30歳を過ぎた野球選手はベテランの部類に入り、35~36歳を過ぎれば引退というパターンが多かったのですが、昨今はスポーツ医科学が進歩し、どの選手も若いうちから理にかなった科学的なトレーニングをしています。
そのため、30歳を過ぎたからといって急激に肉体的なパフォーマンスが落ちるということは少なくなっています。以前と比較してプロ野球の選手寿命が延びている背景には、おそらくこうした事情が大きく関係していると言えるでしょう。
仁志 敏久(にしとしひさ)
1971年茨城県生まれ。常総学院高校では準優勝1回を含む甲子園3度出場。早稲田大学では主将としてチームを牽引し、主に遊撃手として活躍。日本生命を経て、1995年にドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。1996年に新人王をはじめ、ゴールデングラブ賞を4回獲得するなど、二塁手レギュラーとして活躍。2007年に横浜ベイスターズ(現、DeNAベイスターズ)へ移籍。2010年に米独立リーグ・ランカスターへ移籍、同年引退。現在は、野球評論家として「すぽると」をはじめテレビ、ラジオでの解説、雑誌等での寄稿を行う。また、指導者としてジュニア世代育成、講演会などを積極的に行う。2014年8月にU12全日本代表監督に就任。2015年7月には第1回WBSCプレミア12の日本代表内野守備・走塁コーチに就任。著書に『プロフェッショナル』(祥伝社)、『反骨』(双葉社)など多数。
1971年茨城県生まれ。常総学院高校では準優勝1回を含む甲子園3度出場。早稲田大学では主将としてチームを牽引し、主に遊撃手として活躍。日本生命を経て、1995年にドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。1996年に新人王をはじめ、ゴールデングラブ賞を4回獲得するなど、二塁手レギュラーとして活躍。2007年に横浜ベイスターズ(現、DeNAベイスターズ)へ移籍。2010年に米独立リーグ・ランカスターへ移籍、同年引退。現在は、野球評論家として「すぽると」をはじめテレビ、ラジオでの解説、雑誌等での寄稿を行う。また、指導者としてジュニア世代育成、講演会などを積極的に行う。2014年8月にU12全日本代表監督に就任。2015年7月には第1回WBSCプレミア12の日本代表内野守備・走塁コーチに就任。著書に『プロフェッショナル』(祥伝社)、『反骨』(双葉社)など多数。