カルチャー
2016年2月26日
【プロが教える野球観戦術】結果論より"見えないファインプレー"を語れてこそ本物の野球解説者
[連載] プロ野球 見えないファインプレー論【2】
聞き手・SBCr Online編集部
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野球を「知っている」とはどういうことか


「この監督(解説者)は野球を知っているね」
「あのチームは野球を知っている選手が多いから強いよ」

 こんな表現を耳にすることがあります。私自身もインタビューでよく、「野球に潜む見えない部分」について聞かれることがあります。いわゆる「野球を知っているのかどうか」を試される場面です。

 いったい、「野球を知っている」とは、どういうことなのか。ファンの方にとっては、選手の状況判断の良し悪しや、監督の采配の的中率を評価して言うことが多いかと思います。しかし、何をもって「知っている」と定義するかによるのですが、「野球を知っている」というのは俗語のようなもので、厳密な意味で野球を知っている人など、いるわけがないというのが個人的な考えです。

 そもそも、野球のゲーム展開など、どう転ぶかわからないものです。また、これから起こることを正確に予測出来る人など、これまたいるわけがありません。
 例えば、9回裏無死満塁。守備側の選手に、打者がスクイズをしてくるのか、何もなく打って出るのか、あるいはそれ以外の何かをしかけてくるのかといったことを、 100%読み取ることなど、サインがわかっていない限り不可能です。

「絶対にこうすればいい」という鉄則はありません。最低限の陣形を取るということ以外、守備側が特別な狙いを持って準備するのは非常に難しい。もちろん攻撃側にだって絶対に点を取れる方法などあるわけがありません。そもそも、野球に限らず、すべての物事には「理屈」も「屁理屈」も両方あり、どちらが正解ということもありません。言うなれば、どちらも正解になり得るわけです。

 ただ、9回裏無死満塁の場合、おおよそのケースでは「ホームで刺すために内野手を前進させる」ということが最低限のセオリーになりますから、そこは考慮に入れることになります。ただし、それも点差によりますし、いろいろなケースもあり、場合によっては確率論から考えて、それが 100%正しいとは言えないこともあります。この「確率」と「セオリー」のどちらを取るかは、そのときの判断ということになります。

 その判断を下すための最後の要因を理論で説明出来れば「野球を知っている」ということになるのでしょうが、これが実は非常に難しいのです。

"見えないファインプレー"を見抜ける人がよい解説者


 年間100試合以上をこなすプロには、野球人として現場で感じる「空気感」や「流れ」といったものがあります。こういう表現を使うと、非科学的で説得力がないという意見もあると思いますが、実際に理論では説明しづらいものを、ベンチや選手が肌で感じ取り、それにより作戦が決まるといったことが、現実に試合の現場で起こっているのも事実です。

 そういった様々な要因をあらかじめ頭の中で整理しておき、試合展開の中で判断を求められたり、観戦して解説を求められたりしたときなどに、理路整然と答えられる、言うなれば「理屈」「屁理屈」に答えられるというのが、結果として「野球を知っている」という他者からの評価に繋がるのだと思います。

 今の解説者で言えば、例えば野村克也さんや桑田真澄さんなどのように、目に見えるようで見えないようなこと、つまり「見えないファインプレー」を見抜き、きちんと理論を添えて整然と答えられるというのが、世に言う「野球を知っている」ということになるのだろうと思います。

 そのためには、一つひとつのことを曖昧にせず、自分なりに答えを見つけ出しておくという習慣は必要になってくるのかもしれません。というのも、アマチュア野球の指導者の方などを対象に講演や講習会をしていると、とにかくいろいろなことを質問されるのですが、すべてにおいて100点の答えを求めたがるという傾向があります。

「アウトコースの低めの打ち方はどうすればいいか」
「インコースの高めはどう対応したらいいか」
「アウトコース低めを狙っていてインコースの高めにきたら、どうやって打てばいいか」

 しかしながら、これらの質問に対する100点の答えとは、現実にはありません。

 というのも、「インハイ」と「アウトロー」でまったく次元の異なる打ち方が求められるというわけではなく、ゴルフのように何種類ものバットを使い分けて打つわけでもない。そもそもそれぞれのコースや高さの打ち方、またその対応が全部違っていたら、どんな器用な打者でも対応しきれません。すべては基本的なスイングの変形です。

 しかし、アマチュアの方々が的確な答えを求めているのであろうことを理解し、一方で的確な答えはないことを踏まえて、出来る限り望んでいる答えに近いものをわかりやすく説明することを心がけ、多くの方々に納得してもらう。それが、私たち野球人の仕事であり、使命でもあると考えています。

(了)





プロ野球 見えないファインプレー論
仁志敏久 著



仁志 敏久(にしとしひさ)
1971年茨城県生まれ。常総学院高校では準優勝1回を含む甲子園3度出場。早稲田大学では主将としてチームを牽引し、主に遊撃手として活躍。日本生命を経て、1995年にドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。1996年に新人王をはじめ、ゴールデングラブ賞を4回獲得するなど、二塁手レギュラーとして活躍。2007年に横浜ベイスターズ(現、DeNAベイスターズ)へ移籍。2010年に米独立リーグ・ランカスターへ移籍、同年引退。現在は、野球評論家として「すぽると」をはじめテレビ、ラジオでの解説、雑誌等での寄稿を行う。また、指導者としてジュニア世代育成、講演会などを積極的に行う。2014年8月にU12全日本代表監督に就任。2015年7月には第1回WBSCプレミア12の日本代表内野守備・走塁コーチに就任。著書に『プロフェッショナル』(祥伝社)、『反骨』(双葉社)など多数。
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