カルチャー
2016年3月25日
【プロが教える野球観戦術】一流選手ほどスコアボードの「情報」を活用している
[連載] プロ野球 見えないファインプレー論【4】
聞き手・SBCr Online編集部
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冷静な状況判断に欠かせないスコアボード


 スコアボードというのは、ただ単に点数が表示されているだけの巨大な板というわけではありません。ボールデッドのときなどに、選手が頭の中を整理し、気持ちを落ち着かせて試合に集中するための非常に便利な存在でもあるのです。

 事実、シーズン中の試合でも、監督やコーチがピッチャー交代を決めるときなどは、だいたいがこのスコアボードを見ながら相談していたりします。

「今、6回だからまだ3回もあるな」
「次の攻撃は8番からか」
「では1イニング続投させて次の回で代打」
「その次の回から中継ぎのあいつでいくか」

という具合です。

 もちろん見ないで頭の中だけでも考えることは出来るでしょうが、視覚的に情報を理解しながら整理して考えたほうが、冷静な状況判断が出来るのは当然です。言われてみれば当たり前に思えるかもしれませんが、意識して活用出来ているかというと、当たり前すぎて意外に使えていないことも多いはず。一発勝負のアマチュアの選手たちにとっては、その瞬間の状況判断が勝敗を分けてしまうこともありますから、現役の選手たちには、ぜひ意識して活用してみることをお勧めします。

 状況判断のためにスコアボードの中で最も重要視されているのが旗の動きです。どこの球場のスコアボードでも、たいていは国旗やチームフラッグなどがいくつかはためいて、選手はこれにより風の強さと方向を常に確認し合っています。野球は風の影響を最も大きく受けやすい競技の一つですが、その風も、時間とともに大きく変わることがあるので、選手は絶えずそのチェックが必要になります。

 例えば、ライトへ強い風が吹いているときに左バッターを迎えたときは、バッテリーは右方向へ長打を打たれるようなピッチングは、極力避ける配球を心がけることが多くなります。さらに、風が強ければ打球も大きく流されますので、どのあたりにフライが上がったら誰が捕りに行くのかを、あらかじめ旗を見ながら選手同士で確認し合ったりもします。

 一方バッターは、三振に倒れたときにスコアボードのほうを見上げることがありますが、これは何を見ているのかというと、オーロラビジョンに映されるリプレイ映像です。こうすることで、なぜダメだったのかを確認し、次の打席に活かそうとしているのです。

 2000年の日米野球で来日し、私とも個人的に面識がある元名二塁手のロベルト・アロマーから聞いた話なのですが、彼は元メジャーリーガーだった父・サンディ・アロマーから、「ピンチになったらスコアボードを見ろ」と教えられたそうです。

「スコアボードにはすべてが記されている」というのがその理由です。ピンチになったとき、点差や打順、打率、風などの情報をすべて教えてくれるスコアボードをいったん見ることで、冷静さを取り戻して熱くなった頭をいったん整理し、次のプレーに備えることが出来るというわけです。私自身もそれまで、スコアボードを見る癖は自分なりについていたつもりでしたが、この話を聞いて、その重要性を改めて再認識しました。

 ピンチのとき、ボールデッドのとき、スコアボードを見上げている選手がいたら、おそらくその選手は情報を整理し、次のプレーの準備に入っている最中でしょう。そういう作業も、「見えないファインプレー」の一つと言っていいのではないでしょうか。

(了)





プロ野球 見えないファインプレー論
仁志敏久 著



仁志 敏久(にしとしひさ)
1971年茨城県生まれ。常総学院高校では準優勝1回を含む甲子園3度出場。早稲田大学では主将としてチームを牽引し、主に遊撃手として活躍。日本生命を経て、1995年にドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。1996年に新人王をはじめ、ゴールデングラブ賞を4回獲得するなど、二塁手レギュラーとして活躍。2007年に横浜ベイスターズ(現、DeNAベイスターズ)へ移籍。2010年に米独立リーグ・ランカスターへ移籍、同年引退。現在は、野球評論家として「すぽると」をはじめテレビ、ラジオでの解説、雑誌等での寄稿を行う。また、指導者としてジュニア世代育成、講演会などを積極的に行う。2014年8月にU12全日本代表監督に就任。2015年7月には第1回WBSCプレミア12の日本代表内野守備・走塁コーチに就任。著書に『プロフェッショナル』(祥伝社)、『反骨』(双葉社)など多数。
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