カルチャー
2016年3月18日
「世代間格差」をできるだけ冷静に考える
[連載] 自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう【2】
「老人はもらいすぎでけしからん!」の高齢者責任論では解決しない
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少子化、老老介護、孤独死、待機児童問題など、数多くの難題を抱え「課題先進国」となってしまった日本。こうした混迷の時代でも、自分の半径5mの世界から変えていくことが結局は早く世界を変えることにつながる。日本の未来と、今後の私たちの働き方について、出口治明 氏と島澤諭 氏に語っていただく好評連載2回目!(出典:『自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議』)


超高齢社会に突入した日本はエイジフリー原則に転換すべき


出口 人口問題を解決するには少子化対策が急務ですが、加えて定年を廃止し、「エイジフリー」の社会を構築することが、深刻な労働力不足への対応策にもなると思います。敬老原則は、若い人口の多いピラミッド型社会でこそ成り立つもの。超高齢社会に突入した日本ではエイジフリー原則に早く転換すべきです。

島澤 日本人の平均寿命の推移を見ると、わずか40年間で20年以上も延びています。例えば、1950年の日本人の平均寿命は男性が58歳、女性が61.5歳でしたが、2014年には男性が80.5歳、女性が86.83歳まで延びています。

図1●日本の平均寿命の推移と将来推計『総務省「国勢調査」「人口統計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」(各年10月1日現在人口)をもとに作成』

出口 日本は先進国の中でも特に高齢化が進んだ国で、すでに人口の4分の1が65歳以上の人々で占められています。このままのペースでいけば、2060年には日本人の約4割が高齢者になると言われています(図1)。しかも、平均寿命が延びたことで、公的年金保険や高齢者医療、介護問題など、さまざまな問題が生じています。
 少子高齢化の一番の問題点は、高齢者を支える現役世代の頭数が減ることです。皆保険・皆年金が制度化された1961年は、サッカーチーム(11人)で1人の高齢者を支えればよかったのが、現在サッカーチームは2人台にまで減りました。そして2050年には、1・3人で1人の高齢者を支えなければならないという予測が立てられています(図2)。サッカーチームで支えていたのが騎馬戦になり、将来的には肩車で支えなければならなくなるので、現役世代の負担増は明らかです。

島澤 公的年金保険の問題というのは、何かと不安を煽って報じられることが多いですが、正確な理解がともなっていないもののひとつが「世代間格差」です。公的年金保険制度を含む現在の社会保障制度、財政制度を前提にすると、受益負担に世代間で格差が存在するのは事実です。

図2●日本の高齢者支援比率の推移と将来予測の表『資料:内閣府「平成26年版 高齢社会白書」を元に作成』

 したがって、時代に合わない制度をいつまでも後生大事にしていたずらに世代間格差を拡大させるのは絶対によくありませんし、不当です。特に、まだ選挙権も持ってない、場合によってはまだ生まれてもいない子どもたちに財政負担の押し付けが及んでいるのが現状ですからこれは徹底的に糾弾されるべきです。「代表なければ課税なし」の原則です。
 しかし、問題はそこで終わりません。私はよく世代間格差には、現在生きている世代とまだ生まれていない世代(選挙権を持ってない世代も含む。一般的に将来世代と呼ばれる)との間の世代間格差、そしてもうひとつ現在生きている世代の間での世代間格差の、世代間格差には2通りあると指摘しています。そして、どちらの格差が大きいかと言うと、世代会計の試算結果で判断する限り、実は現在世代と将来世代の間の世代間格差の方が大きいのです。
 つまり、「世代間格差だ! 老人はもらいすぎでけしからん!」と言っている人々も、実は将来世代から見れば同じ穴の狢でどっちもどっちなのです。いつ生まれたかに関係なく、本来は同じように扱われるべき国民が等しく扱われていないのはまさに法の下の平等に反しますし、つまりは憲法違反だと思います。
 安保法案に大騒ぎしていた人たちは、憲法学者も含めてなぜこうした年齢による差別を大目に見ているのか理解に苦しむところなのですが、それはさておき、世代間格差を生み出している年齢による差別を撤廃しようと思えば、結局、年齢によらない社会保障制度の実現にたどり着くと思います。
 国による年齢差別を晴天の下に暴き出したという点では世代間格差問題は一定の功績があったと思いますが、その功績を過大評価することなく、さらに次の一歩に進まなければなりません。実際には、困っている人は何歳であろうと困っていますし、困っていない人は何歳でも困っていないので、困っていない人が困っている人を助けるような仕組みにすればよいのだと思います。本来そこに年齢という要素は不要なのです。先ほど出口さんが指摘されたエイジフリー原則ですね。






自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議
出口治明・島澤諭 著



出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。

島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。
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