カルチャー
2016年4月8日
「消費税増税先送り」問題、これだけは知っておこう!
[連載] 自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう【5】
そもそも近代国家の大原則は「負担が給付」であること
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消費税以外にも逆進性のある税は多いのだが...


図●過去20年の各国の社会保障支出と国民負担率の増減

出口 かつては輸出額が輸入額を大きく上回り、アメリカとの間に貿易摩擦が生じたこともある日本ですが、最近では東日本大震災以降、燃料費の増大などで輸入額が輸出額を上回り、貿易収支が赤字に陥ることも多くなりました。そのため、双子の赤字を避けるためにも財政再建は急務ですが、さまざまな問題が山積みです。
 その代表が、「小負担・中給付」の問題です。「負担が給付」が原則ですから、本来は給付(社会保障)と負担(税金や社会保険料)がイコールでないとやっていけません。ところが、日本は給付がOECDの平均を上回っているのに、負担はOECDの平均を下回っています。つまり、少ない負担で中程度の恩恵が受けられているということです。これは市民からすれば理想郷かもしれませんが、「負担が給付」のロジックが完全に破綻してしまっているわけです。
 日本が今まで「小負担・中給付」でやってこられたのは、実質7%の成長が30年以上も続いていたからです。7%成長が約10年続けば経済規模が倍になりますから、税収も倍増が見込めました。ところが高度成長の時代が終わり、今は国債の発行で穴埋めしないとやっていけなくなっています。過去20年の各国の社会保障支出と国民負担率の増減を見ると、他の先進国は「負担が給付」の原則に従い、負担を増やして社会保障を増やしています。ところが、日本だけは負担が減っているのに社会保障は増えてきました。
 このような状況がずっと続くのは健全ではないので、今後は負担と給付をそろえなければなりません。そう考えれば、現段階よりも負担を中程度に引き上げる「中負担・中給付」が妥当だと思います。

島澤 中負担にするには、消費税を現在の8%から20%超に引き上げる必要があります。とはいえ、消費税率の引き上げは駆け込み需要とその反動減などが発生して消費が減少するから、景気がしっかり回復軌道に乗るまで実施するべきではないとの主張が必ず聞かれます。しかし、そう主張する方はなんやかんや問題点を指摘するので、結局いつまでたっても消費税率の引き上げが行われません。その結果が現在の巨額な政府債務残高であり、将来世代へのつけ回しです。
 消費税率を引き上げれば短期的に景気に下押し圧力になるのは不可避です。要は、将来の所得増が見込まれ、社会保障財源安定化に伴う不安払拭が実現されれば、安心して消費を行えるようになります。そうした将来の経済、所得環境の改善策をあわせて行えばいいのです。

出口 消費税は、メディアが「逆進性がある」とマイナスの感じで煽り立てていますが、世の中には逆進性があるものがたくさんあります。

島澤 NHKの受信料などはその典型例です。低所得者から見れば普通に重い負担ですが、消費税の逆進性に比べたらそれほど騒がれていません。

出口 これまでの日本の所得税が異常に累進性が高かったので、フラットな税制が「貧しい人にとっては負担が重いもの」と受け取られたのかもしれません。でも水道料、電気代、ガス代などは全部逆進性があるわけですから、消費税の逆進性だけが強調されるのはとても不思議な話です。

島澤 社会保障の保険料も、所得に応じて上限があるので逆進性が強いですが、それを指摘するメディアはほとんどありません。国民もこの逆進性について何とも思っていないのは、負担が大きくてもそれがサービスとして返ってくることを理解しているからです。つまり、負担(社会保障の保険料)と給付(社会保障のサービス)が一致しているということです。
 しかし消費税は、負担はするけど給付が実感できないから、「10%にアップします」となると損な気分になるのだと思います。






自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議
出口治明・島澤諭 著



出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。

島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。
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