カルチャー
2016年4月8日
「消費税増税先送り」問題、これだけは知っておこう!
[連載]
自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう【5】
そもそも近代国家の大原則は「負担が給付」であること
「大きくても効率的な政府」であればウェルカムでは?
出口 負担と給付をそろえるのであれば、北欧諸国のように国民負担率を大幅に増やす「高負担・高給付」という道もあります。例えば、「教育費はタダにして、子育てや年金、医療を充実させます。その代わり、消費税は25%まで引き上げます」と主張する政党があれば、賛同する市民は多くいると思います。ところが、日本には「高負担・高給付」をマニフェストに掲げる政党がありません。
これは、日本では「高負担・高給付」を「大きな政府」と呼んで嫌う傾向にあるからです。本質的な大きな政府問題は、政府のオペレーションの問題(負担や給付がシンプルに設計されているかどうか)であって、給付のレベルの問題ではありません。
日本ではこの2つが混同されています。加えて「大きな政府は、市民の勤労意欲や競争力を削ぐ」とも言われますが、北欧諸国の国際競争力ランキングを見ると、多くの国が上位にランクインしているので、正しい意見ではないと思います。もちろん日本のランキングよりはるかに高い。
島澤 北欧は負担も大きいですが、批判が少ないのは、取られた分がきちんと戻ってくるからです。負担と給付が上手くリンクしています。
そもそも「大きな政府」とか「小さな政府」という呼び方はミスリーディングで、「大きくても効率的な政府」であればウェルカムでしょうし、「小さくても非効率な政府」であれば願い下げでしょう。要は、自分たちの政府が効率的なのか非効率的なのかこそ問題にされるべきことだと思います。私は大きくても効率的な政府であれば、「高齢者の高齢化」が進むこれからの日本においては、そちらの方が望ましいのではないかと考えています。
また、「高負担」の場合、それだけ懐から持っていかれる金額が大きくなるわけですからその使い道に対して厳しい監視の目を働かせるようになるでしょう。ただ、今の日本のように、あれもこれも無駄遣いとただ叫ぶだけではなく、本当に有用なものと無用なものを見極める目も養わないといけないと思います。
出口 逆にアメリカのような「小負担・小給付」の社会は、医療や公的年金保険などを削減するわけですから、高齢化が深刻な今の日本には根付かないと思います。やはり、「中負担・中給付」がもっとも現実的な道なのではないでしょうか。
ちなみに、日本は人口10万人あたりの公務員数が先進国の中では最小なので、オペレーションの上では「小さな政府」の典型です。よく「日本の公務員は仕事が楽なのに給料が高い」と批判する人がいますが、実は非常に効率よく国家や自治体を運営している。多分批判されている方は、公務員が一所懸命働いている姿を見たことがないのでしょう。
負担は未来の世代へ
島澤 日本が「小負担・中給付」になっているのは、「負担が給付」という原則を忘れてしまっているからです。「困ったら国債を発行すればよい」で、国の借金も膨れ上がっており、今の世代は身の丈を超えた行政サービスを謳歌し、負担は未来の世代(これから誕生する世代)に押しつけようとしています。
出口 未来の子どもや孫の代が使うべきお金を僕たちがクレジットカードで勝手に引き落として使っているようなものです。
島澤 世代間格差をテーマにした番組などに出演したときに「いまの年金受給世代は受け取っている年金は全部自分たちが払ったお金が戻ってきているのだと信じているのだけど、実際に政府の統計を見れば、受け取っている年金額の4割は他の世代が負担していることが簡単に分かります。
もしその4割を削れば今の世代の年金給付額は現在の6割程度になるかもしれないけれど、自分や企業の負担が軽くなって給料が増えたり雇用が増えたりして、若い世代は助かる」という話をすると、視聴者代表と自称される方から「あなたの言う話はそうかもしれないけど、我々はそういうのを知らされていなかったんだ」などと言われます。でもそれは、第二次世界大戦中に大本営発表を信じていたけれど、気がついたら負けていたのと同じようなものです。日本人はお上や他人が流す情報を鵜呑みにする癖が、いつまで経っても抜けないのでしょうか。
(了)
出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。
島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。
島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。