カルチャー
2014年7月29日
「筋トレを継続させる」
常識やぶりの金言ベスト5
[連載] 50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ【3】
文・増田晶文
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金言3:「ちょっとキツい」と「大きな無理をしない」を両立させよ


 筋トレには、ドイツの学者が唱えた「ルーの原則」という金科玉条がある。

・筋肉は鍛えないと衰える
・筋肉は鍛えすぎても衰える

 筋トレの極意は、まさに中庸の精神といえよう。それに、筋肉はサボり屋のうえ弁解上手だから、くれぐれも油断しないように。

 もう1回、バーベルを挙上できるのに、そこで止めてしまうのはもったいない。

 1キロ重いバーベルを扱えるのに、それに挑戦しないままだと筋肉は発達しない。

 私の筋トレは週に2、3回。それも1時間以内にケリをつけるのが大方針だ。しかし、毎回かなりへヴィーな内容だと自負している。筋肉が「きてる、きてる」と声をあげるまで徹底的に追い込む。

 私が超のつくヒマ人で、筋トレ以外にすることがなく、毎日ジムに通うとしたら、トレ強度を下げざるを得ない(今のメニューだと、2週間目あたりでぶっ倒れてしまうだろう)。筋トレは、うまい日本酒と同じ。適量だと百薬の長だが、量をこすと命を削る鉋になってしまう。

 とにかく、筋トレで無理の連続はケガや故障に結びつくので禁物。読者諸氏はオトナなんだし、自分の限界がどのあたりにあるかは、各自で察知&自覚できるはず。感覚でいえば「ちょい、きつい」は許容範囲。ここをターゲットに鍛えていきたい。

 でも「無理」とか「つらい」、ましてや「激痛」は危険信号。そこまで追い込む必要は、まったくない。

 トレーニング後、心地よい汗と達成感が手に入れば最高だ。

金言4:重量に惑わされない


 筋トレにはウエイトがついてまわる。

 こやつは数字だから、実にわかりやすい。ところが、そこが落とし穴になってしまう。

 筋トレ界には、「99キロと100キロだと、100キロが偉い」という風潮がはびこっている。だが、重量よりも筋肉との対話を活発にし、体調にあわせて、扱う重量を変化させるセンスとノウハウを身につけたほうが、ずっと効果があがる。

 極論するが、100キロのベンチプレスができていたとしても、大胸筋にうまく刺激を伝えていなければ何の意味もない。それなら50キロで、筋肉と会話しながら効かせるほうがずっといい。

 とはいえ、初心者の頃からずっと同じウエイトで鍛えているというのも問題がある。筋肉を肥大させるには、徐々に重量を増やし負荷を強くしていく必要があるからだ。

 これを――、「オーバーロード(漸進性)法則」という。

 ヘラクレスは、仔牛を持ち上げて肉体を鍛錬した。仔牛は日々、成長して少しずつ重量を増す。まさしくギリシア神話の英雄は、この法則を実践していた――。

 ただ、肉体の限界は必ず来る。記録が無制限に伸び続けるわけがない。

 最大重量(1回だけ挙上できるウエイト)の更新も大事だが、それよりは効かせることに意識を集中させるべきだ。

金言5:回数なんか勘定しなくていい


 筋トレ教科書には、1セットで「10回を目標に」とある。

 10回をこなせる重量というのは、「最大重量の75%あたり」。この重量と回数が、運動生理学で「もっとも筋肉の発達する組み合わせ」とされている。

 しかし! 筋肉にとって大事なのは、ただ漫然と1セットで10回こなすことじゃない。「10回目で筋力をほとんど使い果たしている」=「オールアウト」という意味だから誤解なきよう。

 しかも! 10回というのはけっこう回数が多い。私なんぞは、7回目くらいから勘定するのがメンドーくさくなってくる。

 だから、キャリアの浅かった時期から、10回ではなく5回くらい(重量でいうと最大筋力の85%あたり)で「オールアウト」するようにしてきた。特に大胸筋は、自分としては発達しやすい部位なので、今では1セット3回くらいの重量で済ませてしまう。

 反対に、ガンコに発達を拒む脚部は、こやつが悲鳴をあげるまで追い込んでいる。

 てか、正直いうと、ここ数年は回数なんかまったく勘定していない。そんなことより、重量を刺激に直結させて筋肉に感じ、筋肉を最大限に伸展&収縮させることに専心している。オールアウトこそが、筋トレの神髄。重量や回数にこだわるより、筋肉の反応に耳を傾けよう。

筋肉と対話することで、発見できる新しい自分


 無理せず、だけどちょっと厳しく筋肉を鍛えれば、週に2、3回のトレーニングで必ず成果が出る。

 これは年齢や性別にまったく関係ない。

 そして、人生のすべてを筋肉に捧げる必要はない(いえ、そうしたい人はどうぞご自由に)。気軽な運動習慣として、ライフスタイルに筋トレをプラスすれば健康が手に入る。

 人間、いつ死ぬかは天のみぞ知ること。

 だが、できれば命が終わる直前まで生き生きと活動したい。筋トレはそれをアシストしてくれる。

 それに、3回にわたって書いてきたように、筋トレというのはなかなか奥深い。筋肉との対話することで、新しい自分を発見できる。

 筋トレは、人生で経験してきたあれこれと意外に似通っている。

 まして、10歳身体が若返るとなれば――さっそく、筋トレを愉しんでいただきたい。そう、今日から!

 ミドル&シニアこそ、筋トレ適齢期だ。

(了)





50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ
こうすれば愉しく無理せずに続けられる
増田晶文 著



【著者】増田 晶文(ますだ まさふみ)
作家。1960年生まれ。26歳から本格的にウエイトトレーニングを開始し現在進行形、雑誌「Tarzan」でも紹介される。身長170センチ、体重60キロ、体脂肪率5.9%(2014年2月22日時点)。「Number」などの雑誌でトップアスリートやトレーニングコーチたち、さらにサッカーワールドカップ、オリンピックなど国際大会を数多く取材。ボディビルダーたちを主人公にした著書『果てなき渇望』で文藝春秋Numberスポーツノンフィクション新人賞を獲得。同作品は2000年に書籍化され、「文藝春秋が選ぶスポーツノンフィクション単行本部門第1位」にも輝いた。著書に、『ジョーの夢 新島襄と徳富蘇峰、そして八重』(講談社)、『うまい日本酒はどこにある』(草思社文庫)などがある。近著は『50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ』(SB新書)。
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