カルチャー
2015年4月13日
体内時計が乱れると腸に穴があくって本当?
[連載] 病気を防ぐ「腸」の時間割【3】
文・藤田紘一郎
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「リーキーガット症候群」にご用心!


 体内時計を無視した生活を送っていると、腸にも困ったことが起こります。腸に、細かな穴があいてしまうことがわかってきたのです。

 腸に穴があいてしまうことを「リーキーガット(腸管壁浸潤)症候群」といいます。私たちが食べたものは、通常、腸にて小さな分子に分解されてから、体内に吸収されます。

 ところが、腸に穴があいてしまうと、未消化の栄養素がそのまま体内に入り込んでしまいます。その分子は、正常な腸からは吸収されない大きさのものです。

 栄養素が適切に吸収されなくなると、多くの症状が現れるようになります。まず、膨満感や腹痛が強くなり、腸内ガスであるおならがたくさん出ます。消化不良が原因となり、便秘や下痢をたびたび発症し、疲労感も強くなるでしょう。

 ミネラルやビタミンも適切に吸収されなくなるので、これらの欠乏症が起こります。ミネラル・ビタミンは体の健康維持に必須の栄養素です。

 たとえば、ミネラルが欠乏すれば、骨密度の低下や脳梗塞・心筋梗塞(カルシウム・マグネシウムの不足)、循環器疾患(カリウムの不足)、貧血(鉄分の不足)、味覚障害(亜鉛の不足)などを発症します。

 ビタミン欠乏症が起こす一例は、視力の低下(ビタミンAの不足)、骨軟化症(ビタミンDの不足)、溶血性貧血(ビタミンEの不足)、ウェルニッケ脳症(ビタミンB1の不足)、悪性貧血(葉酸の不足)、めまいやだるさ(ビタミンB12の不足)などがあります。

 これらは、ほんの一例であり、ミネラルやビタミン不足が起こす諸症状はまだまだあります。脳の働きも阻害されるため、記憶力や集中力が低下し、イライラや不安などストレスを感じやすくなることも多くなります。

 そして、腸に穴があくことによる最大の危険事項は、食物アレルギーを発症しやすくなることです。ほとんどの食物には、タンパク質が含まれます。タンパク質は通常、アミノ酸という超微粒子に分解されてから体内に吸収されます。

 ところが、リーキーガット症候群になると、分子の大きなタンパク質が腸から体内に侵入し、これがアレルギー反応を起こす原因となるのです。

 食物アレルギーは「子どもの病気」と思っていたら大間違いです。近年、大人の食物アレルギーがとても多くなっています。大人に多いのは、果物や野菜、小麦、エビやカニなどの甲殻類です。特定のものを食べて、のどがイガイガ感じたり、皮膚に赤みやかゆみなどが現れたりしたら、食物アレルギーが起こっている可能性が高いと判断できます。

 食物アレルギーは悪化すれば、突然死を起こしかねない病気です。アナフィラキシーショックといって、ごく短時間のうちに全身にショック症状が発生し、命を奪われてしまうのです。

 リーキーガット症候群の危険性は、これにとどまりません。腸に入り込んできた病原体など毒性のある異物が、体内に侵入しやすくなるのです。通常は、外界から侵入してきたウイルスや細菌などの異物は、腸にて排除されます。

 しかし、腸に穴があいていると、免疫組織が排除する前に、病原体が腸管を通過してしまうのです。






病気を防ぐ「腸」の時間割
老化は夜つくられる
藤田紘一郎 著



藤田紘一郎(ふじたこういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授。昭和14年中国旧満州生まれ。三重県育ち。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学大学院にて寄生虫学を専攻。テキサス大学で研究後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授を経て、昭和62年より東京医科歯科大学教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日米医学協力会議のメンバーとして、マラリア、フィラリアなどの免疫研究の傍ら、「寄生虫体内のアレルゲンの発見」「ATLウイルスの伝染経路の発見」など多くの業績をあげる。日本寄生虫学会賞、講談社出版文化賞、日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞受賞。著書に『笑うカイチュウ』(講談社)、『清潔はビョーキだ』(朝日新聞社)、『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『人の命は腸が9割』(以上、ワニブックス)、『体がよみがえる「長寿食」』(三笠書房)など多数。
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