カルチャー
2015年4月17日
体内時計の乱れは、やがて認知症を招く
[連載] 病気を防ぐ「腸」の時間割【4】
文・藤田紘一郎
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うつ病の前には必ず腸機能の低下がみられる


 夜型の生活を送っている人にとっては、朝はとくにつらい時間でしょう。かつて私も若いころ、大好きな研究と夜遊びに勤しむため、夜を活動時間としていたことがありました。

 医者として朝の大事さは知っていたものの、馬の耳に念仏、「自分の体は自分がよくわかっている」とうそぶいては、睡眠時間を削っていました。

 だから、「朝型生活を始めましょう」といわれたときの、耳の痛い気持ちはよくわかります。わかるけれども、あえていいましょう。朝は、あなたがこれからの人生、病気や不調を遠ざけて若々しく生きていくには、どんな良薬より大事な時間です。

 体内時計とサーカディアンリズムのズレは、朝にリセットしなければいけません。リセットを行わないと、時差ボケの状態のまま1日を過ごすことになります。日中なのに眠気が強く、頭がボーッとして、集中力が続かず、体も重くだるさを感じる、という状態です。

 そんな不調に気づいているのに、なおも夜型生活を続けていると、体内時計はますます乱れ、サーカディアンリズムの振幅は小さくなり、ダラダラとメリハリのないリズムを体は刻むようになります。まもなく不眠が現れます。

 睡眠が不足しているはずなのに、布団に入っても寝つけず、眠りが浅く、わずかなことですぐに目覚めてしまう状態です。睡眠に満足感を得られないので、朝起きるのがつらくなります。起床時間は遅れ、朝の時間をゆっくりと過ごす余裕が失われ、日中に強い眠気に襲われます。

 こうした日々を続けていると、やがて慢性的な時差ボケの状態に陥ります。体調は著しく悪化し、頭痛やめまい、肩こり、腰痛などのつらい症状に苦しめられることになります。腸の機能も落ちるため、下痢や便秘をしやすくなり、免疫力も低下して、風邪を引きやすくなります。

 何よりも怖いのは、ここからうつ病を発症しやすくなることです。「うつ病は心の病気」といいますが、私はそうは思いません。うつ病の前には、必ず不眠と腸機能の低下があります。うつ病とは、体内時計の乱れと腸内バランスの悪化を起因とする病気なのです。

 体内時計の乱れの放置は、さらに恐ろしい障害を招きかねません。慢性的な不眠の先には、認知症があると考えられています。私たちの脳は睡眠によって休息を得、脳細胞の修復と再生を図っています。それにもかかわらず長い歳月、不眠の状態を続けていると、脳細胞の状態が悪化し、ゆくゆくは認知症を発症する危険が生じてくるのです。

 厚生労働省の発表によれば、現在65歳以上の認知症の患者さんの数は、7人に1人です。これだけでも驚くべき数字なのに、2025年には5人に1人になると推計されています。「できれば認知症だけにはなりたくない」「認知症になるくらいならば、長生きしたくない」などと、誰もが思うでしょう。私も75歳を過ぎましたが、認知症は避けて通りたい病気です。

 朝に体内時計のリセットタイムを設けないことは、うつ病や認知症などの病気を自ら招き寄せる行為となることを覚えておいてください。こんな話を聞いたら、朝型生活を始めようかな、と思えてきますよね。

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病気を防ぐ「腸」の時間割
老化は夜つくられる
藤田紘一郎 著



藤田紘一郎(ふじたこういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授。昭和14年中国旧満州生まれ。三重県育ち。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学大学院にて寄生虫学を専攻。テキサス大学で研究後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授を経て、昭和62年より東京医科歯科大学教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日米医学協力会議のメンバーとして、マラリア、フィラリアなどの免疫研究の傍ら、「寄生虫体内のアレルゲンの発見」「ATLウイルスの伝染経路の発見」など多くの業績をあげる。日本寄生虫学会賞、講談社出版文化賞、日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞受賞。著書に『笑うカイチュウ』(講談社)、『清潔はビョーキだ』(朝日新聞社)、『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『人の命は腸が9割』(以上、ワニブックス)、『体がよみがえる「長寿食」』(三笠書房)など多数。