ビジネス
2015年4月21日
「製造技術」は優れていても「製品技術」がない日本のメーカー
[連載]
日本のものづくりはMRJでよみがえる!【2】
文・杉山勝彦
日本のオールスターが集結し、技術の粋がつまった国産旅客機、MRJ(三菱リージョナルジェット)。並みいる世界のライバルメーカーたちに対してMRJはどんな優位性をもっているのか? 日本の航空機産業は、果たして新たな成長産業として軌道にのれるのか? MRJをウォッチし、航空機産業を支えるメーカーの現場を丹念に見てきた杉山勝彦が執筆し、5月に刊行予定の『日本のものづくりはMRJでよみがえる!』から、日本のものづくり復活のヒントを見ていこう。
薄利多売から「厚利寡売」へ――大事なのは、売上ではなく利益
そもそも稼ぐとはどういうことだろうか。
それは、利益を上げるということだ。
何を当たり前のことを言っていると思われるかもしれないが、企業の経営者であってもこれをきちんと理解しているとは限らない。
以前、筆者は航空機関連メーカーに依頼されて、特殊な金属加工のできる下請け企業を募集したことがある。自動車部品を手がける中小企業などに声を掛けて説明会を開催したところ、多くの経営者が参加した。ところが説明会が始まると、最後まで話を聞かずに帰ってしまう経営者が少なからずいたことに、筆者は大変に驚いた。
この説明会で募集した仕事は航空機の主要部品の加工で、月産10機ほどの機体が対象になる。途中で帰ってしまった経営者に後で話を聞いたところ、「月産個数を聞いただけでまったくお話にならないと思った」というのである。自動車部品では、最低でも月に何千台分という発注が行われる。これに対して、月産10機の機体部品は、数百分の1だから、「やっていられない」というわけである。
ところが、航空機と自動車ではまったく産業としての構造が異なることを理解する必要がある。
旅客機の機体で使われている部品点数は、400座席のボーイング747‐400で400万点、250座席の767で310万点、350席の777で300万点程度だ。また、ロケットエンジン、ジェットエンジンは1基で10~20万点ほどの部品から構成されている。これに対して、自動車の部品は3万点程度なので、部品点数に100倍ほどの開きがある。
日本における自動車と旅客機の産業規模を比較した場合、生産量は自動車が月産3000~3万台程度、航空機が月産10~50機程度と、航空機は自動車の300分の1ほどになる。部品点数で考えれば、航空機部品関連の仕事は、自動車部品の3分の1程度である。
だが、航空機部品の事故信頼率は自動車よりも100倍は高い。当然、その分が部品の付加価値となる。つまり、1品目当たりの単価が比べられないほど高いのである。
自動車やエレクトロニクスのように大量生産が定着している分野の企業経営者は薄利多売に慣れきってしまっているが、「厚利寡売」とでもいうべき方向へと考え方を転換しなければならない。
高品質な製品は、それが認められる市場で初めて意味を持つ
日本のメーカーは、製品が高品質であることにプライドを持っているが、品質をビジネスに結びつけられていないところに問題がある。
その代表がテレビだろう。すでに大型液晶テレビは世界的に普及し、製品価格も下落しているのだが、品質が求められていない市場に無理に品質を押しつけようとして失敗するケースもしばしば見られる。
筆者が聞いたのは、某大手家電メーカーが液晶テレビをインドネシアで販売しようとしたエピソードだ。液晶テレビは、背面にあるLEDバックライトからの光が液晶面を透過して映像を映し出す。某メーカーの自信作の液晶テレビは、高品質なLEDバックライトを多数搭載することで、画面すみずみまで均一に明るく照らせるようになっていた。
このテレビを現地の販売店に見せたところ、「こんなに明るくなくていい」といわれ、最終的に販売される液晶テレビにはLEDバックライトは1本しか搭載されないことになった。
バックライトの数が減ることで、明るさや色ムラが出ることになるわけだが、インドネシアの顧客は高画質よりも価格が安いことを歓迎するというのである。これでは、新興国の安価なテレビに勝てるわけがない。
家電メーカーは今でも4Kや8Kとテレビを高画質化することに邁進しており、それによって高い付加価値を獲得しようとしている。だが、液晶テレビの高画質化は、半導体製造技術によるところが大きいため、あっという間に新興国にキャッチアップされてしまうだろう。
製品が高品質であることは、十分な付加価値になりえる。だが、きちんとその付加価値を認めてもらえる市場に出して初めて利益を得られるのである。
杉山勝彦(すぎやまかつひこ)
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。