カルチャー
2015年9月3日
中国、ロシア、アメリカで「対日戦勝記念日」が異なる理由
[連載] 日本人が知らない「終戦」秘話【7】
文・松本利秋
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終戦から70周年を迎えた。太平洋戦争を知っている世代が年々少なくなる一方で、今年は節目の年ということもあり、今月は戦勝国を中心に対日戦勝利を祝う式典等が行われている。今回は、日本人の常識である「8月15日=終戦」が、世界では必ずしもそうなっていない事実を取り上げる。


「8月15日=終戦」とする日本人だけの常識


 日本は1945年8月14日に、連合国にポツダム宣言を受諾すると告げた。その翌日の15日には、天皇が日本国民に直接ポツダム宣言受諾を告知し、大日本帝国将兵に武器を置いて戦闘行動の中止を命じた。つまり休戦の日である。

 そして9月2日には、天皇の命により国家として正式に降伏文書に署名した。ここで日本の降伏が正式に認められたのである。だが、日本人の常識となっている1945年8月15日という終戦記念日は、ごく単純に考えても、各方面と時差の問題がある。

 われわれは学校で、1952年9月2日、サンフランシスコで行われた講和条約締結で国際社会に正式にデビューしたと習った。ではこの日を期にして、各国との戦闘状態が正式に終了したのかというと、事はそんなに単純ではない。

 サンフランシスコ講和には、中国とソ連その他の国が参加していなかった。このため日本は、それらの国々とは別個に条約を交わさなければならなかった。中国(中華人民共和国)とは1972年に国交を回復し、日中共同宣言を通じて正式に戦争状態を終わらせたが、北方領土問題を抱えたソ連とは、1956年の日ソ共同宣言は、両国が国会で批准した条約扱いとなっているが、未だに平和条約は結ばれていないのだ。

 このように考えると、交戦国それぞれに終戦記念日があり、この日が決定的な終戦の日だとはなかなか言えないのが実情だ。

ロシア、中国の「対日戦勝記念日」をめぐる思惑


1945年9月2日、米戦艦ミズーリ艦上にて降伏文書に署名する梅津美治郎参謀総長

 例えばアメリカ合衆国では、8月14日に日本が降伏することが報道された。その日にトルーマン大統領はポツダム宣言を説明し、日本がそれを受け入れたと告げた。だが、VJデー(対日戦勝記念日)は9月2日の降伏文書調印を見届けた上で布告するとした。

 9月2日の戦艦ミズーリ上での調印式を実況中継したラジオ放送が終わった後、トルーマンがラジオで演説し、9月2日を正式にVJデーとし、第二次世界大戦を勝利で終えたことを宣言したのである。従ってアメリカの第二次世界大戦の終了は1945年9月2日ということになる。

 ソ連では、降伏調印の翌日の9月3日を対日戦勝記念日としていた。ソ連は8月9日に対日戦を開始し、降伏調印式が行なわれている9月2日に歯舞諸島攻略作戦を発動し、9月5日に千島全島占領を完了させた。ソ連にしても作戦中の9月2日を戦勝記念日とは言えず、翌3日に戦勝記念式典を開いて体裁を整えたのである。

 その後、9月3日を正式な対日戦勝記念日と定めていた。だが、ソ連崩壊後の2010年7月に、政権を受け継いだロシア連邦共和国議会が、9月2日を「第二次世界大戦が終結した日」と制定する法案を可決した。これによってロシアは第二次世界大戦を連合国として戦った国とアピールでき、同時に対日戦で行なったあらゆる行為を帳消しとし、北方領土の実効支配を正当化できるというしたたかな計算があると言えるだろう。

 中華民国は、中国大陸での戦闘の主役であり、連合国の一員としてポツダム宣言にも加わった。帝国陸軍支那派遣軍は、9月9日に南京で正式な降伏調印をし国民党軍に降伏した。だが国民党政府は9月2日を戦闘の区切りとし、翌9月3日から3日間を抗日戦争勝利記念の休暇としたことから、中華民国では9月3日が記念日となった。

 現在の中国である中華人民共和国の成立は1949年で、戦勝国とするには無理がある。  そこで、9月2日の翌日を独自の対日戦勝記念日と制定し、全国人民代表者会議で「日本の侵略に対する中国人民の抗戦勝利の日」と決定したのは2014年のことだ。今年2015年には軍事パレードを含む派手な戦勝記念日行事を行ない、既成事実化を図っている。

 朝鮮半島では、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国ともに、1945年時点で国家として存在していないため、8月15日を韓国では光復節、北朝鮮では解放記念日としている。

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日本人だけが知らない「終戦」の真実
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)、『「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質』(小社刊)など多数。