カルチャー
2015年10月29日
医者が処方で金儲けはウソ! 医薬分業でも薬が減らない事実
[連載] だから医者は薬を飲まない【1】
文・和田 秀樹
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自分ではほとんど薬を飲まないのに、患者には薬をたくさん出す医者。医者が処方箋で金儲けができなくなったのに、薬が減らない事実。これらの矛盾は、現代の医学界の問題であり、闇のカラクリがあるからです。このコラムでは6回にわたり、「減らない薬の事実」に焦点を当て、その大罪を容赦なく炙りだしていきます。


医薬分業でも薬が減らないカラクリ


「こんなにたくさんの薬を飲んで大丈夫だろうか?」
 調剤薬局で受け取った大量の薬を見たら、誰しもこんな疑問を抱くと思います。

 ところが、医者自身も「こんなにたくさんの薬を飲んで大丈夫かな?」と思いながら処方箋を書いていたとしたら、皆さんはどう思いますか。「ちょっと待ってくれよ!」と言いたくなるはずです。そんなことが現実に起こっているとしたら...。

 日本の医療は専門分化型になっています。大学病院に行くと、昔だったら内科は1つしかなかったのに、いまは「循環器内科」「消化器内科」「呼吸器内科」「腎臓内科」「糖尿病内科」「神経内科」...というふうに細かく分かれています。

 専門分化が進んだことによって、それぞれの分野で治療が進化した面ももちろんありますが、実は現在では専門分化型医療の弊害のほうが目立ってきているのです。それは医者自身が自分で開業してみて初めてわかる事実かもしれません。

 たとえば、外科を専門にやってきた医者が、開業の際に外科では患者さんがあまり来ないからという理由で、「内科、小児科、耳鼻科」などと掲げることもあります。「外科が専門なのに?」と疑問を持つかもしれませんが、医師免許さえ持っていれば、麻酔科を除いて、どの科を標榜しても構わないと国が認めているのです。

 大学の医学部では全科を履修しなければならず、1科目でも落とすと卒業することはできません。国家試験もいまは、すべての科目を取り混ぜた総合問題形式で出題されています。つまり、基本的に医者は医学全般の知識を持っているわけですから、開業の際に自分の専門以外の科を標榜することに何ら問題はないわけです。

 ただし、自分の専門以外の分野については十分なトレーニングを積んでいないので、自信を持って対応しているとは言い難い面があります。とは言っても、「実は胃腸のことはあまり詳しくなくて......」と、患者さんに不安を与えるようなことを言う医者はいません。

 では、どうしているのでしょうか。
 それは、自分の知識のなさを補うために、多くの薬を出しているのです。

専門以外の科を標榜する医者が薬を増やす


 自分の知識だけでは心配な医者は、『今日の治療指針』(医学書院)といった医学専門のハンドブックを開いて治療法を調べたり、処方すべき薬を決めたりしています。

 ハンドブックには標準的な治療法と薬の名前や用法・用量も出ているので、自分の専門外の知識を得るのに非常に心強いわけですが、標準治療として推奨されている薬は、たいがいどんな病気に対しても1種類ではなく2種類とか3種類ぐらいあるのです。

 そうすると、心臓病の患者さんを診ているときに、「実は骨粗しょう症もあるんです」「血糖値が高いと言われました」「喘息も持っているのです」「胃潰瘍もあります」と言われると、「そういうことなら......」ということで医者もそれらの薬を処方するわけですが、たとえば1つの病気や症状に対して3種類の薬を出さなければならないとしたら、全部でだいたい15種類の薬を出すことになるわけです。

「さすがにちょっと多いなあ」と医者自身も思っているはずですが、総合的な判断ができず、どうやって量を減らしたらいいのかわからないのです。特に自分の専門ではない病気については、どの薬を削ったらいいのか、ほとんど判断がつきません。

 このように人の健康状態を総合的に診るような医療システムがないまま、現在の臓器別診療、専門分化型診療がこのまま続くと、薬を大量に消費する状況は一向に改善されないことは目に見えているのです。






だから医者は薬を飲まない
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『だから、これまでの健康・医学常識を疑え! 』(ワック)、『医者よ、老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)、『老人性うつ』(PHP研究所)、『医学部の大罪』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『東大の大罪』(朝日新聞出版)など多数。
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